第81話 霊峰の支配竜の足掻き
その後、戦闘は激化した。フレ姉達が、果敢に攻撃を続けていた結果、私の吸血よりもフレ姉達へのヘイトが勝ったらしい。
てっきり吸血をされていたら、確実に一つだけの行動パターンになるのだと思っていたけど、単純に吸血のヘイトが高く設定されていただけだった。
現在は、三段目のHPゲージの九割八分削ったところだ。すぐに四段目に移るだろう。一番警戒しないといけないところだ。
「全員、気を引き締めろ! ここからが本番だ!」
フレ姉がそう言った直後、四段目に到達した。その瞬間、霊峰の支配竜から噴き出していた炎の勢いが増した。私の周囲の温度も上がっていくが分かる。あの白いのは、本当に炎だったみたい。内と外から焼かれている。まるで、調理されている気分だ。
「メイティ! ハクにバフを掛けろ!」
「【アレスの猛り】【アトラスの支え】【アテナの守り】」
メイティさんが、三種類の付加魔法を掛けてくれる。それぞれ物理攻撃力、物理防御力、魔法防御力に関係していると考えられる。アトラスの支えに関しては、体幹とかにも関係しそうだけど。
おかげで、ちょっとだけ熱さがマシになったのと、しがみつく力が増した。
「ブレスが来るぞ!!」
霊峰の支配竜が首を持ち上げる。これまで通りのブレスの予備動作だ。
「【グングニル】」
フレ姉がまた槍を投げた。その一撃は、霊峰の支配竜の顎に命中したようで、またブレスを未然に防ぎ、体内で暴発させた。完全にタイミングを見切っている。さすが、フレ姉ってところだ。
だけど、ブレスを防いで、霊峰の支配竜が終わるわけもない。身体から炎を噴き出させて、思いっきり急降下していった。前にもあった攻撃パターンだけど、状態が違う。
「【鉄塊】【キャッスルウォール】」
「トモエの後ろに行け!」
霊峰の支配竜が急降下して、その前脚を叩きつける。激しい爆発が起こり、大気が振動する。霊峰の支配竜の上に乗っている私は、爆風の被害に遭わずに済んだけど、大きな振動は感じた。
私は、即座に皆のHPゲージを確認する。トモエさんが七割、他の皆が五割近くも削れていた。トモエさんの防御の後ろいてあれだ。正直、トモエさんがいなかったら、皆一撃死だったかもしれない。
「【パナケイアの癒し】」
メイティさんの魔法で、皆のHPが大幅に回復した。温存していたという事は、結構MP消費の激しい魔法なのかもしれない。
メイティさんの回復が終わるのと同時に、霊峰の支配竜が首を持ち上げた。さっきブレスを防いだばかりだ。フレ姉の技のクールタイムは、まだ過ぎていないだろう。
「【昇竜裂波】」
今度はゲルダさんが、ブレスを止めた。いつもなら、そこで攻撃一旦止まるはずだけど、今回は違った。ブレスを防がれた霊峰の支配竜は、前脚を振って、空中にいるゲルダさんを殴った。
少し離れた方にある壁から何かが激突したような音が聞こえる。そこで攻撃は止まらず、尻尾が動く。これは、さっきフレ姉を襲った攻撃だ。
「【激流逸らし】」
ゲルダさんに向かっていた尻尾が、軌道を逸れて、壁に埋まった。霊峰の支配竜の攻撃の苛烈さが増していく。羽の一部を硬化させて、また放った。
「【キャッスルウォール】」
今回は分断されていないので、トモエさんの技で防御可能だ。それでも、トモエさんのHPはゴリゴリと削れていく。
「【ラージヒール】」
メイティさんが回復を挟んだおかげで、何とかトモエさんが落ちずに済んだ。メイティさんが、回復が必要になると判断していなかったら、あそこで落ちていたと思う。早く吸い尽くしたいという思いが強くあるけど、吸血する量は一定。これ以上早く飲む事なんて出来ない。皆には、耐えて貰うしかない。
皆が、霊峰の支配竜と激しい攻防をしている間に、四段目のHPが半分まで来た。そこで、霊峰の支配竜の行動パターンが変わった。私達の殲滅から、自分の命を脅かす存在を排除する方向に。つまり、背中で血を吸っている私だ。
身体から白い炎を噴き出して、思いっきり天井へと向かってく。ものすごく覚えのある行動だ。あの夜霧の執行者と同じで、私を叩きつけようって事だ。だけど、あの時とは、私も違う。硬質化で背中を守る。ダメージを受けるけど、吸血ですぐに回復する。
私がまだ掴まっている事に気付いた霊峰の支配竜が、今度は、壁に向かって突っ込んで行った。壁に叩きつけられるダメージは無効化される。でも、霊峰の支配竜は、それで終わらず、壁に背中を付けて、壁を削りながら私をどかそうとしてくる。私は、背中を硬質化したままにして、ダメージを抑える。
「奴の動きを止めろ!」
「【雷縄風鎖】」
「【暗黒の呪縛】」
霊峰の支配竜の身体を雷と風の縄と鎖が、巻き付いていった。さらに黒い手が地面へと誘う。霊峰の支配竜は、身体を回転させて、拘束から抜けた。その先にフレ姉がいた。
「【剛槍・白鯨】」
フレ姉の槍が、霊峰の支配竜の頭に命中して、その場に止める。そこに、下からアカリが上がってくる。
「【シューティングスター】」
喉に向かって突き刺さり、完全に霊峰の支配竜の勢いがなくなる。
「【大切断】」
「【チャージショット】」
サツキさんの大剣が、霊峰の支配竜の頭に振り下ろされ、その下からカティさんの矢が撃ち込まれる。さらに、ゲルダさんが跳び上がった。
「【震転脚】」
ゲルダさんの踵落としが命中して、霊峰の支配竜の身体が地面に墜落する。
「【ヴォイド】」
アク姉の魔法が、霊峰の支配竜の尻尾に放たれる。尻尾の一部が空間に吸い込まれるようにして消えた。尻尾の半ばから切れたので、尻尾による攻撃はなくなったと考えて良いと思う。
「【リリース】」
アメスさんがストックしていた魔法を使う。それは、百以上の光と闇の槍だった。私に当たらないように配慮されたその魔法は、どんどんと霊峰の支配竜に突き刺さる。私の真横にも命中しているので、正直、生きた心地はしなかった。
霊峰の支配竜のHPは、残り一割。その段階になると、霊峰の支配竜の身体から噴き出していた炎が、全身に回った。つまり、私も直接焼かれ始める。
「っ……」
熱い。でも、耐えている。【吸血鬼】によるHP吸収が上回っている。
「それ以上ハクちゃんを炙るな! 【ニブルヘイム】」
霊峰の支配竜の身体に霜が降りる。炎と冷気が鬩ぎ合う。寒暖差が激しすぎて、逆に辛いけど、この分霊峰の支配竜のHPが減る量も増えているので、文句はない。
でも、霊峰の支配竜の攻撃は終わらなかった。霊峰の支配竜の身体が光り始める。同時に、噴き出している炎の勢いが落ちる。
「全員トモエの後ろに隠れろ!! 全力防御!」
フレ姉の指示で、皆がトモエさんの後ろに隠れる。
「【鉄塊】【鉄壁】【キャッスルウォール】【アイギス】」
「【アトラスの支え】【アテナの守り】」
「【十連】【ストーンウォール】」
「【ウォーターウォール】【ウィンドカーテン】」
トモエさんを先頭に、完全防御態勢になる。
「ハク!」
フレ姉に声を掛けられた私は、手を振って応える。大丈夫という意味を汲み取ってくれたのか、フレ姉は、それ以上何も言わなかった。
そして、次の瞬間、霊峰の支配竜が爆発したかのように、霊峰の支配竜を中心にして熱波が広がっていった。アク姉が出した水の壁と風のカーテンは、一瞬で消えた。アメスさんが出した石の壁も次々に溶けていく。それくらいの高温だ。
霊峰の支配竜の最後の足掻きである全体攻撃に安地はなかった。部屋の隅々まで攻撃が行き届いていた。
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