第80話 お馴染みの最終手段
二段目のHPを削り切り、三段目に到達した直後、霊峰の支配竜の様子が変わった。身体の節々から炎にも似たものを噴き出させている。色は白く、まるで武装しているかのようだった。
「三段目から行動変化か……っ!?」
「フレ姉!?」
いきなりフレ姉の身体が吹っ飛ばされた。その原因は、霊峰の支配竜の尻尾だった。目にも留まらない速度で伸びてきた尻尾によって、吹っ飛ばされたのだ。幸い、HPは二割減っただけで済んでいた。ギリギリのところで、槍を盾に出来たみたい。もしかしたら、フレ姉には、攻撃が見えていたのかも。
「油断すんな!! 次が来るぞ!」
「【リリース】!」
アク姉が、ストックしていた魔法を発動した。私達の前に、それぞれ氷の壁が現れる。そして、その全てがいきなり粉砕した。いきなりの攻撃に、私達は動けなかった。アク姉がいなかったら、フレ姉と同じように吹っ飛ばされていたと思う。
「【暗黒の呪縛】」
アメスさんは、すかさず霊峰の支配竜を拘束しようとする。先程までは、しっかりと拘束出来ていたけど、今回はすぐに脱出された。
「厄介ね……【大地割裂】」
霊峰の支配竜の足元にある地面が罅割れていき、霊峰の支配竜を飲み込もうと、一気に開いた。でも、空を飛ぶ霊峰の支配竜には効果が薄い。すぐに羽を動かして、空に逃げよとする。
「【ダウンバースト】」
それを防ぐように、霊峰の支配竜の真上から猛烈な風が吹き下ろしてきた。バランスを崩された霊峰の支配竜は、亀裂に向かって落ちていく。でも、すぐに体勢を立て直した。
その理由は、身体の節々から噴き出している炎にも似たものだ。派手に噴き出したと同時に、アク姉の【ダウンバースト】を打ち消した。
「【チャージショット】」
カティさんが放った矢が命中する。でも、これまで通り体勢を崩すことは出来なかった。さらに、受けているダメージも少なくなっている。
これらから考えるに、第二形態で、全ステータス上昇って感じかな。ついでに言えば、あれを噴き出す事で、魔法を打ち消している可能性もある。
霊峰の支配竜は、滞空しながら、羽を大きく広げて咆哮する。
「!?」
咆哮の直後、急に地面が隆起した。私達をそれぞれ孤立させるように、壁が生まれる。
「防御!!」
フレ姉の声が響く。直後に、霊峰の支配竜の羽が硬質化していく。そして、羽ばたきと共に硬質化した鱗のようなものを飛ばしてきた。私は、すぐに身体を硬質化しつつ、短剣で弾く。何発か食らうけど、硬質化しているおかげで、ダメージはそこまでじゃない。
その攻撃が終わったと同時に、血を飲む。
「【マルチヒール】」
メイティさんが魔法を発動した声が聞こえる。発動した魔法は、恐らく複数人回復。パーティー全員を回復出来るみたいだけど、回復量は少ないみたいだ。
「アクア!」
「分かってる! 【インフェルノ】」
大きな炎の球が、霊峰の支配竜に向かって飛んでいく。霊峰の支配竜は、それに対して、また身体中の節々から白い炎を噴き出して、突っ込む。霊峰の支配竜のHPが、少し減ったけど、その炎の球を抜けてきた。やっぱり、魔法への抵抗力が格段に上がっている。
「【五連】【雷霆の怒り】」
炎を抜けてきた霊峰の支配竜に、右側から五筋の稲妻が命中する。そして、左側から流星が上がっていく。
「【シューティングスター】」
霊峰の支配竜が右側に逸れる。そこに正面からフレ姉が飛び掛かる。
「【剛槍・白鯨】」
顔面に槍が命中して、霊峰の支配竜が少し押される。これらの攻撃で、三段目のHPゲージは、一割も削れていない。
「ちっ……さすがに、簡単にはいかないか」
フレ姉が私の近くに着地した。
「フレ姉、一つだけ防御無視で攻撃出来る手段があるけど……」
「今のあれに飛びつけんのか?」
「それは出来ると思う。ダメージも、血を吸い続ければ回復し続けるから、実質ゾンビみたいなものだよ」
「よし。私達の攻撃でダメージを見込めない以上、ハクに頼るのが一番だ。首から羽の付け根に掛けて、死角になるはずだ。問題はあの尻尾だが、こっちでも何とかしてみる。無理だと思ったら、すぐに降りろ。良いな?」
「うん」
私は、血染めの短剣を仕舞う。
「ハクが飛びつく!! 全員援護しろ!!」
フレ姉はそう言って、霊峰の支配竜に向かって駆けていく。
「【弱者の嘲り】」
トモエさんがヘイトを集めようとする。しかし、霊峰の支配竜の視線は、トモエさんの声がした方に向かない。
「ちっ! ヘイト管理が効かないか……いや、それ相応のヘイトが必要って方があり得るか」
「【スターレインアロー】」
「【重爪】」
空から大量の矢が降り注いで、霊峰の支配竜を地面に誘導する。そこに駆け寄っていったゲルダさんが、爪で思いっきり裂いた。さっき程じゃないけど、霊峰の支配竜の動きが鈍くなる。
「サツキ! 打ち上げろ!」
フレ姉が、私の襟首を掴んで、思いっきり投げる。思わず悲鳴を上げそうになったけど、何とか抑え込む。風圧を感じながら、空を舞うと、下からサツキさんが跳んできた。
「行くぞ」
「はい!」
大剣の腹に足の裏を合わせる。サツキさんが、大剣を振り回し、思いっきり私を打ち上げた。
「【暗黒の呪縛】」
「【雷帝の怒り】」
私を視線で追っていた霊峰の支配竜が、下の方を見る。ただ空を上がっている私よりも、実際に攻撃してくるアク姉やアメスさんにヘイトが溜まったのだと思う。
思っていたよりも、サツキさんが強く打ち上げてくれたみたいで、天井まで届いた。身体を反転。靴底で天井を噛んで、霊峰の支配竜に向かって勢いよく落ちる。こういう時にうってつけの技がある。
途中で身体を反転させる。
「【流星蹴り】」
先程のアカリの逆。上から落ちる流星となって、霊峰の支配竜の身体にめり込む。これでも霊峰の支配竜を叩き落とす事は出来なかったけど、上に着地する事は出来た。私がいるのは、羽の付け根と首の間。私は、ツイストダガーを抜いて、身体に突き刺し、がっしりとしがみつく。
「それじゃあ、いただきます」
魔力の牙を生やし、思いっきり、霊峰の支配竜に噛み付く。こんな噛み付き攻撃は、霊峰の支配竜にとって屁でもない攻撃だろう。でも、本当に恐ろしいのは、ここからだ。私に取っても。
口の中に、霊峰の支配竜の血が流れ込む。フォレストリザードに似た感じかと思ったけど違う。フォレストリザードには、藻のようなカビのような匂いがしたけど、霊峰の支配竜からは別の匂いがする。どちらかというと、獣寄りだ。ぶっちゃけ言うと、他のどの獣よりも強い。
そして、もっと別の事があった。正直、こっちの方が重要な問題だった。身体が、発火したように熱い事だ。高熱に魘された時に感じるような熱じゃない。内側から炙られているかのようだ。
HPゲージを確認してみると、HPが減って回復してを繰り返している。何らかの要因でダメージを受けているけど、血を飲んでいるから回復しているという感じだろう。
そして、向こうのHPに関しては、微々たる量だけど減少していっている。夜霧の執行者の時よりも遙かにマシ。三時間コースはないかな。
私が吸血をしている事に気付いたのか、霊峰の支配竜の様子が変わり始めた。身体を捩って、私を外そうとしてくる。
「【デッドリークロー】」
ゲルダさんが攻撃するけど、霊峰の支配竜が気にした様子はない。
「【弱者の嘲り】」
トモエさんのヘイト集めも効いている様子はない。吸血している最中は、行動パターンが強制的に一つだけになるのかもしれない。それが分かったところで、私の行動は変わらない。霊峰の支配竜のHPが削り切れるまで、吸血を続けるだけだ。
ここからの戦いは、この熱さと痛み、匂いとの戦いだ。つまり、私の忍耐力との戦いになる。そうなれば、私は負ける気がしない。このゲームを始めてから、伊達に、【吸血鬼】と付き合ってきてない。
もう一つの戦いは、フレ姉達に任せる。多分、自分達も攻撃する方を選ぶだろうけど。ともかく、これで倒せる道筋は出来た。
不安があるとしたら、たった一つ。たった一つだけだ。それは、霊峰の支配竜の行動パターンの変化。最後まで、吸い尽くせれば良いけど。
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