第61話 夜の中級エリア
森を歩き始めて、少ししたら完全に日が暮れた。
「やっぱり夜ってよく見えないよね」
「そう? あっ、私は【吸血鬼】で夜目が利くから、アカリとは違うだけか」
「良いなぁ。私も【暗視】のスキルを取ろうかな」
「そういえば、そんなスキルもあったね。取らない理由は?」
「松明があれば、視界は確保出来るし、あまり必要だと感じなかったからかな。今のところ、夜しか困ってないし」
「熱帯の洞窟とかは?」
私は、双刀の隠れ里に繋がっていた洞窟を思い出した。熱帯には、あれの他にも洞窟があっても不思議ではない。そうなれば、【暗視】のスキルは、かなり便利に思える。
「洞窟なんて、そんな数はないし、それこそさっきも言った松明でどうとでもなるよ」
「ふ~ん、そういうものなんだ」
【吸血鬼】を使っている間は、松明の世話になる事はないと思う。でも、これは私の話。アカリとか他のプレイヤーは違う。
「アカリが使いたいなら、松明使っても良いからね?」
「うん。ありがとう。でも、外は月明かりがあるから大丈夫だよ」
「分かった。変に遠慮しないでよ?」
「私とハクちゃんの仲だもん。そんな遠慮しないよ」
私とアカリは、互いに笑い合った。その直後、真顔に戻った私達は、同じ方向を見る。
「ブラックレオパルドかな」
「この速度なら、そうだろうね」
私は、ツイストダガーを抜く。出血状態にさせる事は、かなり重要だというのは、五回戦って改めて思い知った。それくらい【血装術】の操血が有用だったからだ。ほぼ確実に血を抜くことは出来るし、それでダメージも与えられるからね。その血を使って、強化や回復も出来るから、私にとってなくてはならないスキルだ。
暗闇に紛れて、ブラックレオパルドが突っ込んでくる。
「【スタンショック】」
青白い電撃がブラックレオパルドに命中した。そして、ブラックレオパルドが、そのまま地面を削りながら、こっちに滑ってくる。そのブラックレオパルドの背中にツイストダガーを突き刺して、すぐに魔力の牙を突き立てた。
【吸血鬼】を発動して、一気に血を吸う。一気にブラックレオパルドのHPが削れていく。最近は、【操血】だったり、【血装術】だったりに、頼り過ぎていたけど、やっぱり直接吸うのは、段違いだ。問題は、口の中に入ってくる血の量が馬鹿みたいに増えているので、どんどんと飲まないと口の端から溢れてきそうになる。例えるならば、ペットボトルの飲み物を真上にして口に突っ込まれているような感じだ。
HPが残り五割になったところで、ブラックレオパルドが気絶から目覚める。【血装術】で血を取りだしつつ離れる。そこに入れ替わるように、アカリが突っ込む。
「【ゲイルトラスト】」
途轍もない勢いで突き出された細剣が、ブラックレオパルドの頭に突き刺さり、刃の根元まで埋まる。HPが残り二割まで減る。そこに、私も突っ込む。血染めの短剣に【血装術】で血を纏わせる。
「【バックスタブ】」
ブラックレオパルドが動き出す前に、その背中に短剣を突き立てた。【執行者】と【バックスタブ】の背後ダメージアップによって、二割のHPを削り切った。
「ふぅ……本来のステータスと技を使えば、こんなものかな」
「【吸血鬼】の吸血は、凄いね。改めて、私の時に、上手く調節してくれていたんだって思ったよ」
「吸う量の調節は出来ないけど、死なないところで止めるとかは出来るからね」
吸う量の調節とかが出来るようになっても、特に使い道はないから、全力で吸うだけになると思うけど。
「さてと、さっさと先に行こうって言いたいところだけど、そうもいかないみたい」
「だね」
私達は、武器を抜いたまま互いに背中を合わせる。お互いが向いている方向から、ブラックレオパルドが突っ込んでくる。
「【スタンショック】」
さっきと同じように、ブラックレオパルドを気絶させようとしたけど、何度も上手くいくわけもなく気絶はしなかった。突っ込んでくるブラックレオパルドに蹴りを合わせる。
「【二段蹴り】」
噛み付こうとしたブラックレオパルドの顔を右脚で蹴って、そのままの勢いを使って、右脚を軸に、左脚を蹴り込む。
それで削れるのは、一割だけだったけど、ブラックレオパルドが一瞬怯む。身体が動かせるようなってすぐに、ツイストダガーで首を突き刺す。そうして出血状態になったところで【血装術】を、ツイストダガーに直接使う。血の刃が、ブラックレオパルドの体内で出来上がったので、そのまま振り抜く。クリティカル判定を受けて、三割削れて、残りHPが六割になる。
首を斬った際に身体も一緒に持ち上がったみたいで、ブラックレオパルドの身体が浮き上がる。地面を蹴ろうとしても空を切るだけ。その隙を見逃さない。
「【雷打】」
高速で繰り出された拳が、ブラックレオパルドの腹にめり込んで近くの木に向かって吹き飛び、叩きつけられた。そこで、またブラックレオパルドは、一時的に動けなくなる。その間に追撃を掛けられれば良かったのだけど、技の硬直時間が挟まって、上手く追撃に繋げる事は出来なかった。残りHPは、三割まで減っている。
ブラックレオパルドは、私の攻撃を受けないようにするために、走ろうとする。それをさせないために、いつもの高速移動で一気に詰める。
【血装術】を使ったツイストダガーを使い、首を斬りつける。同時に、血を取りだして、ツイストダガーに二重に纏わせる。
攻撃力を更に強化したところで、ブラックレオパルドを連続で斬っていく。逃げようとするブラックレオパルドを常に追い、HPを削り切った。普通のステータスになれば、このくらいは出来る。それも【スピードエンチャント】無しでだ。【脚力強化】があるのも大きい。
アカリの方を見てみると、ちょうど倒し終えたところだった。
「やっぱり、本職には敵わないね」
「逆に、そこまで戦える生産職の方が珍しいでしょ。それより……」
「うん。ヤバイね」
【感知】に複数のモンスターの反応があった。それは、私達に向かって来ている。
「十以上……これは逃げた方が良いかな」
「ううん。返り討ちにしよ。私とハクちゃんなら、大丈夫だよ」
「本職には敵わないって言ったばかりなのに、自信満々だね。じゃあ、やろうか」
私は、ツイストダガーを仕舞って、血刃の双剣を取り出す。さすがに、出し惜しみをしているような状況じゃない。夜だから、周囲にプレイヤーも少ないし、あまり見えないはず。
「死なないようにね」
「分かってるよ。アカリの方もね」
「うん」
中級エリアが、本領を発揮して牙を剥いてきた。ここを切り抜けられないと、上級エリアに行くのは夢のまた夢になるかもしれない。だから、ここが一番の気合いの入れ時だ。
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