第62話 中級エリアの本領

 姿を現したブラックレオパルド二匹が、正面から同時に襲い掛かってくる。二匹の間に入り込んで、その首に血刃の双剣を突き刺して、【血装術】を使う。二匹同時に血を取りだして、二重に纏わせた。

 そのまま身体に沿って、短剣を走らせる。そして、その真横から、アカリが細剣で二匹一遍に突き刺す。ちょうど心臓の部分を正確に突き刺したので、クリティカルダメージだ。これで動きがある程度止まるので、二匹まとめて膾斬りにする。二匹がポリゴンに変わったのを尻目に、続いて襲い掛かってきた一匹に跳び膝蹴りを打ち込む。

 目を回して裏返るブラックレオパルドに、アカリが素早く近づく。


「【スプラッシュトラスト】」


 アカリの細剣が、残像を残すような速さで次々に突き出される。ダメージエフェクトが、ブラックレオパルドの身体全体に広がり、HPが大きく削れる。

 アカリの技が止むのと同時に、私が突っ込み滅多斬りにする。


「ハクちゃん、凄い……」

「慣れれば出来るよ」


 戦闘の合間に、ちょっとした会話を挟みながら、次に襲い掛かってきた三匹に対処する。さすがに三匹になると、二人で揃って対処するのは無理があるので、アカリに一匹を頼んで、私が二匹と戦う。

 最初に襲い掛かってきたブラックレオパルドの鼻を思いっきり殴ってから、続いて突っ込んできたブラックレオパルドの爪を避けて、お腹に二本の短剣を突き刺して、斬り裂く。

 鼻を殴ったブラックレオパルドは、まだ動けないようなので、もう一匹を集中して攻撃する事にする。

 ブラックレオパルドは、口を大きく開けて噛み付こうとしてくる。私は、右腕から肩に掛けて硬質化を使いながら、口に向かって短剣を突き出す。二の腕まで口の中に入った。短剣で中身がズタズタになっているはず。それでも、ブラックレオパルドは口を閉じて噛み切ろうとしてくる。

 でも、硬質化している私の腕を噛み切る事は出来ない。そのまま左手の短剣で、身体を何度も突き刺す。その間に、ようやく動けるようになったもう一匹が、跳びかかってくるので、右腕を振り回して、跳びかかってきたブラックレオパルドにぶつける。それで、振り回したブラックレオパルドのHPがなくなりポリゴンに変わる。

 もう一匹のブラックレオパルドを相手にしようとすると、【感知】で後ろから跳びかかってくるブラックレオパルドに気付き、その場でしゃがむ。上を通り過ぎるブラックレオパルドの後ろ足を掴んで近くの木に叩きつけた。HPが減っていなかった事から、アカリが相手にしていたブラックレオパルドではない事が分かる。

 私が叩きつけたブラックレオパルドに、アカリの細剣が突き刺さった。アカリも一匹倒したみたい。

 そっちをアカリに任せて、私は、最初に相手をしていたブラックレオパルドに接近する。私から離れようとしたブラックレオパルドだけど、私の方が速かったので、離れられなかった。ブラックレオパルドの顔を蹴り上げて、首に双剣を突き刺して振り抜く。それでポリゴンに変わったので、アカリの手助けに移ろうとした瞬間、他に三匹のモンスターが、すぐそこまで来ている事に気付いた。もっと早く気付くべきだった。【感知】に慣れていないという事がよく分かった。


「アカリ! そっち任せた!」

「うん!」


 【血装術】の効果切れで、ツイストダガーに戻ってしまった血刃の双剣を納めて、血染めの短剣を抜く。アカリが離れている事をしっかりと確認する。


「【追刃】」


 血染めの短剣が青と緑の光を纏う。それを目で確認する事なく、こっちに向かっているモンスターの元に、高速移動で近づく。向かってきていたのは、ブラックレオパルド三匹。正面の三方向から一斉に跳びかかってくるブラックレオパルド達に向かって、短剣を横に振う。

 最初の一撃は空振りになるけど、後を追ってくる【追刃】の一つが、三匹全ての攻撃を防ぎ、もう一つがダメージを与えた。

 そのままの流れで、【追刃】に重ならないようと二匹の攻撃を掻い潜りながら動き、一匹のブラックレオパルドを滅多斬りにしていく。三匹同時にダメージを与えていくよりも一匹を集中して叩いて倒す方が良いと判断したからだ。

 それに【追刃】のおかげで、他のブラックレオパルドが上手く攻撃に参加出来ていなかった。逆に、【追刃】に巻き込まれて、ダメージを受けている。それがヘイトを稼ぐ事になっているのは、嬉しい誤算だった。

 アカリにあんな事言った以上、私は私で、しっかり三匹を食い止めないといけなかったから。一匹を倒したところで、【追刃】の効果が切れる。ここで、血染めの短剣を仕舞って、血刃の双剣を抜く。この戦闘の間に、クールタイムが過ぎたからだ。二匹を出血状態にさせて、【血装術】を使用する。

 跳びかかってくるブラックレオパルドの喉を突き、お腹を斬り裂く。そこに脚を噛もうともう一匹のブラックレオパルドが来るので、右脚を硬質化で守る。

 これで噛み付かれても大丈夫と思っていたけど、実際に噛み付かれる事はなかった。その前にアカリが地面に縫い付けたからだ。

 そっちをアカリに任せて、私は、もう一匹に向き合う。


「【ラピッドファイア】」


 跳びかかって噛み付こうとしてくるブラックレオパルドを二十連撃で倒す。同じように、アカリも倒し終えた。


「ふぅ……これで、全部だよ」

「あれ? もう少しいると思ったけど」

「うん。途中で別の方に流れていったみたい。近くに他のプレイヤーもいるのかな」

「うげっ、双剣見られてないよね」

「うん。見えるところにはいないよ」

「良かった」


 既に見られても仕方ないとは思っていたけど、なるべくなら見られないに越した事はない。


「取り敢えず、ここから離れよう。あの数のブラックレオパルドは、相手にしたくないし」

「そうだね。急いで逃げよう」


 さすがに、ここから何十匹もブラックレオパルドに襲われたら、ひとたまりもないので、さっさと離れる事にする。急いで逃げるという事で、私はある方法を思い付く。


「ちょっと失礼」

「え? わっ!?」


 アカリをお姫様抱っこして、思いっきり走る。私が思い付いた方法とは、アカリを抱えて私が走るという至極簡単な方法だ。私は、【速度強化】【脚力強化】を持っていて、装備に【速度上昇+】【脚力上昇】の追加効果が付いている。つまり、私の走る速度は、アカリよりも速いという事だ。

 こうなれば、私がアカリを抱えて走るのが一番速く移動出来る方法だと言えるはず。実際、さっきまでよりも遙かに速く移動出来ているし。


「重くない?」


 私の首に手を回しながら、アカリが確認してくる。


「大丈夫。ちゃんと持てば、そこまで重くないよ。それより、周囲の警戒をお願い。私より【感知】に慣れてるでしょ?」

「うん。分かった」


 アカリに【感知】を任せて、私は、ひたすらに山へと向かった。途中、何度か戦闘になったけど、さっきみたいな一度に十匹くらいに襲われるという事はなく、多くても五匹くらいだった。これは、運が良かったのか、さっきの戦闘が運の悪い戦闘だったのか。こればかりは、私達だけの情報では分からない。とにかく、深く考えても仕方ないので、考えない事にした。

 二時間の移動の末、私達は森を抜けた。

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