第19話 アク姉のパーティールーム

 一階にある部屋の前に来て、アク姉がドアノブを握ると、勝手に鍵が開いた。


「おっと、その前に……」


 アク姉は、ドアノブから手を放して、ドアノブをタップし、何もない空中をタップしていく。何かのメニューを操作しているのだと思う。

 アク姉が操作を終えたタイミングで、私の目の前にウィンドウが出て来る。


『アクアから、入室許可を得ました。有効期限一日』


 これで一日だけ、この部屋に入り放題になったみたい。こういう許可出しをしないと入れないって事は、泥棒とかは基本無理って事だ。

 アク姉は、改めてドアノブを捻って、私を中に入れた。部屋の中は、アパートというより、マンションの部屋みたいな感じがする。二部屋、リビングと和室、シャワールームがあった。


「リビングにテーブルがあるから、座ってて。簡単にお茶とか用意するから」

「待って!? 大丈夫!?」

「大丈夫だって。ゲームの中で、凄い味になった事ないでしょ?」

「毒のバッドステータスを受けた事あるけど」


 私がそう言うと、アク姉が気まずそうな表情になっていた。だけど、すぐに首を振る。


「いやいや、あれって確か料理特化のゲームでしょ? ここは、そんなんじゃないから大丈夫!」

「まぁ、アク姉がそこまで言うなら良いよ。ダメージ受けても血で回復出来るし」


 私はそう言いながら、言われた通りにテーブルに着く。アク姉は、キッチンのような場所に行って、お湯を沸かし始める。


「ああ、【吸血】があるから……何か、私の料理で【吸血】に耐えられるようになったとか複雑……」

「匂いと味に慣れたら、回復手段になるから便利ではあるよ」

「無理無理。常人には耐えられないよ」

「常人じゃなくした本人が言う?」

「でも、姉さんも白ちゃんも全部食べきってくれるし、作りたくなっちゃうんだよね」


 部屋に二人だけだからか、アク姉の呼び方がハクちゃんから白ちゃんになった。なので、ここからは、私もみず姉と呼ぶ事にする。


「かー姉、めっちゃ怒ってたけど」

「食べられるものを作れってね。二人とも食べてるから、食べられるものではあるのにね」

「それ言ったら、かー姉は、屁理屈言うなって言うと思うな」

「あ~あ、白ちゃんがいない時に言われた。てか、頭叩かれたよ」

「やっぱり」


 そんなリアルな事を話していたら、みず姉がお茶とケーキを持ってきてくれた。


「はい。赤紅茶と熱帯バナナケーキだよ」

「やった! 市販品っぽい!」

「喜ぶのは、そこ?」

「ダメージは嫌だもん。いただきます!」

「はい。どうぞ」


 バナナケーキを頬張ると、熱帯バナナの甘さが引き立てられた味が広がる。


「美味しい!」

「良かった。それで、今は、どんなスキル構成なの?」

「えっとね。こんな感じ」


────────────────────────


ハク:【剣Lv20】【短剣Lv15】【吸血Lv25】【HP強化Lv12】【物理攻撃強化Lv11】【速度強化Lv12】【脚力強化Lv23】【夜霧Lv4】【執行者Lv14】

控え:なし

SP:20


────────────────────────


 黒帝ゴリラと戦って、ちょっと育った。


「ん? 知らないスキルがあるけど……」

「【脚力強化】と【夜霧】は、【吸血】で、【執行者】は初回討伐報酬だよ。夜霧の執行者」

「あっ、あれって、白ちゃんだったんだね」

「うん。【吸血】で、三時間掛けて倒したよ。鎧が邪魔で背中まで手が回らなかったから、それで倒せたんだ。そこから【吸血】は割合ダメージ系かなって」

「へぇ~、【吸血】の検証は、早々に終わったからね。分からない事だらけかもね」

「みず姉は? どんなスキル?」

「ふふん。私はこんな感じだよ」


────────────────────────


アクア:【杖Lv32】【長杖Lv28】【魔法才能Lv27】【火魔法才能Lv25】【水魔法才能Lv25】【風魔法才能Lv24】【雷魔法才能Lv25】【魔法クールタイム減少Lv22】【MP自然回復力上昇Lv20】【魔法ストックLv14】

控え:【魔法攻撃強化Lv25】【物理防御強化Lv22】【魔法防御強化Lv18】【運強化Lv11】【言語学Lv4】

SP:40


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 アカリよりもかなり育っているし、本当に魔法特化のスキル構成だった。


「【魔法ストック】って何?」

「本来は、魔法名を言うのと同時に、魔法が発動するんだけど、それを一つ一つストックしていくスキルだね。ストックした魔法分、最大MPが減るけど、一気に複数の魔法を発動出来るから、結構便利だよ」

「それじゃあ、【言語学】は?」

「本を読むのに必要なものみたい。この街に図書館があって、パーティーメンバーと一緒に読みに行ったんだけど、私以外読めなかったんだ。でも、街にある飲食店とかのメニューの文字は読めるから、本だけ別言語で書かれている説があるんだよね。でも、正直、本から得られる知識があまり無さそうだったから、使ってないんだよね。因みに、これが初期スキルだったよ」


 確かに、この世界の言語が、【言語学】無しでは読めないのなら、カフェのメニューや街の名前も読めない事になる。つまり、みず姉が読んだ本は、スキル無しには読めない特殊な本だったという可能性が出て来る。


「私も取って、読みに行こうかな。みず姉の探索が甘いだけかもしれないし」

「否定出来ない……ランク1だけど、ちゃんと考えて取った方が良いよ?」

「うん。分かってる」


 そう言いながら、【言語学】を収得する。


「面白い情報があったら、連絡するね……って、みず姉とフレンド交換したっけ?」

「してなかった!」


 みず姉とフレンド交換をする。その頃には、二人とも食事を終えていた。お皿を下げていったみず姉は、座っている私を持ち上げて、近くにある三人掛けソファに寝っ転がった。私を抱き枕にする形だ。


「白ちゃ~ん、大好きだよ~!」

「う~ん。分かってるよ~」


 いつものみず姉なので、されるがまま受け入れる。ここから悪化すると、頬にキスばっかりしてくるので、このくらいで止まっている時に十分にやらせるのが一番だった。


「今度、お姉ちゃんともパーティー組んでね」

「良いよ。そうだ。お母さんが、ちゃんとやってるかってさ」

「白ちゃんがいない悲しみ以外は、ちゃんとやってるよ」

「ん~伝えとく」


 私がそう言うと、みず姉が何度も撫でてくる。そんなに撫でられると、いずれ発火するのではと思うくらいに撫でてくる。


「頭が熱くなるから止めて。そういえば、みず姉は、次のイベントに参加するの?」

「うん。皆も参加するよ」

「う~ん……それなら、もっと修行しないと」

「白ちゃんとは、戦いたくないなぁ。絶対攻撃出来ないもん」

「勝負なんだから、ちゃんとしてよ」


 私の事が好きなあまり、みず姉は、ちゃんと戦ってくれない事が多い。軽いPvPなら、受けてくれるけど、体力が全損するまでの戦いは、全然しない。


「こんな可愛い妹を倒れるまで戦うなんて無理だよぉ。姉さんなら良いけど」

「それ言ったら、またかー姉が怒るよ?」

「私にも遠慮しろって怒られたよ」

「そんな正直に何でも言っちゃ駄目だと思う」

「良いよ。姉さんだし」


 みず姉とかー姉は、仲が悪いわけじゃないけど、時々喧嘩している。大抵、みず姉が怒られる感じだけど。


「イベント参加するなら、防御系のスキルがあっても良いかもね。アカリちゃんが作ったくらいだから、防具には、防御強化をしているんだろうけど、安全面を高くするならね」

「私は、攻撃を受けるというより、避ける方が良いなぁ」

「白ちゃんは、ずっとそういうプレイだよね。まぁ、白ちゃんが納得出来る構成で良いと思うけど、被弾には気を付けてね?」

「うん」


 その後、みず姉に沢山愛でられて、解放されたのは、二時間後となった。久しぶりの姉妹の時間だという事もあるけど、結構長かった。これからは、なるべくみず姉と過ごす時間を取った方が、一回の拘束時間が減りそうだ。まぁ、私も楽しいから良いけど。

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