第18話 シスコン
「アカリ~、黒帝ゴリラの素材って使える?」
そう言いながら、アカリエに入ると、カウンターにいたアカリの前にお客さんがいた。私が来る時は、いつも誰もいないので、今日もそのつもりで来てしまった。
「あっ、ごめん」
「ううん。大丈夫。てか、丁度良かったよ。アクアさん、ハクちゃんですよ」
アカリがそう言った直後、アカリが接客していたお客さんが、私の方に振り返る。青い髪を肩口で切り揃えて、魔法使いのローブを着た綺麗な青い眼の女性だった。でも、一番の特徴は、アカリと同じ尖った耳である事。つまり、エルフだ。
そのエルフの女性は、私を見ると、勢いよく駆け寄って抱きついてきた。
「し~ろちゃ~ん!」
「わぁ!? みず姉!?」
「白ちゃん白ちゃん白ちゃん! こっちのゲームでも可愛いね! あ~ん、久しぶりの白ちゃん!」
みず姉は、抱きしめた私に頬ずりをしてくる。大学に入る関係で、一人暮らしをする事になったので、ゲームの中とはいえ、久しぶりに会った。元々私を溺愛してくれているのもあって、こうして過度なスキンシップをされている。正直、行き過ぎた愛に感じるけど、仕方ないと諦めている。
「みず姉、私はハクだから、そっちで呼んで。私も、いつも通りアク姉って呼ぶから」
「うん。分かった」
「それと放して」
「それは嫌だ」
アク姉は、私を抱きしめたまま持ち上げて、アカリの元に運んでいく。アク姉は、結構長身なので、私と二十センチくらい差がある。抱えるのもお手の物だった。
仕方ないので、このままアカリとやり取りする事にする。
「それで、黒帝ゴリラの素材って使える?」
「防具には、あまり使わないかな。どちらかというと、武器の方の強化素材って感じ。ラングさんのところで、売ってくると良いよ」
「オッケー。アク姉。私は、武器屋に行ってくるから、放して」
「えぇ~、嫌だ。このまま行こう?」
「このままは嫌だ。せめて、手繋ぎくらいにしてよ」
「もうしょうがないな」
アク姉はそう言って、私を降ろして手を繋ぐ。アク姉は、ウキウキで手を繋いでいる。
「ラングさんのお店だっけ? 武器は……短剣?」
「うん。スキル構成的に、このくらいの近接戦闘が丁度いいんだ」
「そうなの? 後で、見せて」
「良いよ」
そんな話をしている間に、ラングさんの店に着いた。一緒に中に入ると、ちょうどラングさんが、裏から出て来たところだった。
「おぉ、嬢ちゃんと……アクアか。知り合いだったのか?」
「私のお姉ちゃんです。それより、黒帝ゴリラの素材って、売れますか?」
「ああ、買い取ってるぞ」
売却メニューから、黒帝ゴリラの素材を売る。
「ジャングルも攻略出来るようになったのか。早いな」
「ハクちゃんは、VRMMOが得意だから、上達も早いもんね」
アク姉が後ろから抱きしめながら、自慢げにそう言った。
「そうだ。短剣のメンテナンスお願いしても良いですか? 結構使い込んじゃったので」
そう言って、血染めの短剣をラングさんに渡す。
「そうだな。耐久度的には、まだいけるが、壊れてからでは遅いしな。二、三分くれ」
「分かりました」
裏に向かったラングさんを見送ったところで、アク姉が私を抱き上げて、近くにある椅子に座った。私は、膝の上に乗る形になる。
「ハクちゃんは、ここでもソロ?」
「うん。人付き合いは面倒くさいから。でも、アカリとはパーティーを組んで戦ったよ」
「まぁ、アカリちゃんだしね」
「アク姉は、パーティー?」
「うん。いつものメンバーで組んでるよ」
「へぇ~、どこまで行ったの?」
「今は、南にある砂漠と東の湿地かな。その二つを探索しているところ」
私の知っている場所じゃないので、多分、森とジャングルの先にあるエリアなんだと思う。攻略の最前線は、北って言っていたので、アク姉達は、その一歩後ろって感じだと思う。
「私は、しばらくジャングルかな。黒帝ゴリラにも苦戦しちゃったし」
「あのガチガチゴリラは、魔法で削ると簡単なんだけどね。相変わらず、魔法は使わないの?」
「接近戦あるのみ! あっ、でも、【吸血】は使ってるよ」
「!?」
【吸血】の言葉に反応して、アク姉が震えた。
「もしかして、初期スキル?」
「うん」
「よく吐かないでいられたね。私も、βの時に使ったけど、すぐに吐いちゃった」
「えぇ~、似たようなものをよく作るのに?」
私がそう言うと、アク姉が抱きしめる力を上げる。アク姉なりのお仕置きだ。
「私のは、チャレンジ精神故の失敗だもん。第一、姉さんとハクちゃんが、上手すぎるだけだと思う」
「アク姉は、要らない挑戦をし過ぎだと思う」
アク姉の圧迫が、さらに上がる。背中に感じるアク姉の主張の強い部分が妬ましい。私の姉妹は、中、大、小という順番で並んでいる。因みに背の高さも同じ並びになっている。
アク姉の圧迫に耐えていると、店の裏からラングさんが出て来た。
「終わったぞ」
「ありがとうございます」
アク姉から降りて、ラングさんから血染めの短剣を受け取る。
「やっぱり、これって、前に作ったけど売れ残っていたやつですよね?」
「そうだ。嬢ちゃんが気に入ってくれてな。こうして、持ち手が見つかった」
「短剣不人気ですもんね」
「まぁ、使ってくれる奴等はいるから、店頭には並べるがな。他に注文はあるか?」
「あっ、いえ、ないです。ありがとうございました」
「ああ、何かあれば、また来てくれ」
「はい」
アク姉と手を繋いで、ラングさんの店を出る。
「ハクちゃんは、これから用事ある?」
「ううん。黒帝ゴリラも二時間は現れないから、ジャングルでブラックレオパルド探しをするくらいしかないよ」
「それじゃあ、私達の家に行こうか」
「家? そんなのあるの?」
アカリやラングさんは、店を持っているけど、それは店だからだと考えていた。でも、アク姉の言っている事を踏まえると、普通に家を持てるみたい。
「高いけどね。私達のは、アパートの一室みたいな場所だよ」
「へぇ~、行きたい」
「よし! ゴー!」
アク姉に連れられて来た場所は、アカリとのデートでも来なかった場所だった。色々な建物が並んでいるけど、人の気配は少ない。
「あまり家を買う人はいないの?」
「そうだね。高いし、外で活動する事がほとんどだから、買う意味がないんだよね」
「アク姉達は、なんで買ったの?」
「皆で、集まる事が出来る場所と素材を置いておく場所って感じかな。収納箱っていうのがあってね。そこに大量に詰め込んで、武器を作ったり、防具を作ったり、強化したりする時に使う分を引き出すって感じ」
アク姉の話を聞いて、アカリとパーティーを組んだ時の事を思い出した。ドロップアイテムが分配されてしまう事を考えると、一度一箇所に集めて、必要なものを使うという方式は、結構理に適っているかも。
「トラブルは?」
「長い付き合いだから、あまりないね。寧ろ、遠慮するなって感じ」
「それもそうか。このゲームから、パーティーを組む人達には、ハードルが高いってなるのか」
「それもあるね。ハクちゃんは、知らない人と共有の家を持っちゃ駄目だよ?」
「分かってるよ。持つとしてもアカリとか、かー姉とかかな」
「姉さんは、多分ギルドを持つから、家は持たないんじゃないかな」
確かに、かー姉は、いろんなゲームでギルドを作って、人をまとめている。そういう役割が適している人だからというのが大きい。まぁ、ギルドのメンバーは、大抵同じなんだけどね。こういう面では、私とかー姉は、まるっきり正反対の人だ。
「かー姉のギルメンって、賑やかな人ばかりだよね。このゲームでも楽しんでそう」
「確かにね。それはそうと、着いたよ。ここが、私達の家」
アク姉が止まったところの前には、小さなアパートみたいな場所があった。普通は、上下で八つくらい部屋を置けるスペースがあるけど、全部で四つの扉しかない。一つ一つの部屋が大きいのかも。
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