一瞬の蒼
夏野天
第1話 出会いと別れは雨の日に 。
蒸し暑い6月下旬 。 7月はもうすぐだと言うのに一向に終わりが見えない梅雨 。そして降り止まない雨。
写真部で風景画を撮る僕にとっては、自然を撮れるチャンスであり、外に出にくいピンチでもある。
少なくとも〔 髪がうねるんだけど! 〕という妹の
そんなことを思考しながら今日も下校をしようとした時、
「 待って!ちょっと待ってよ! 」
後ろから聞こえてきた女子の声。自分の目の前には誰も居ないし、きっと僕の後ろに声の主の友人がいるのだろう。そう思い思考を戻そうとした時、
「 ねぇってば!君だよ! 」
そう聞こえた瞬間に僕の右手に感じる、人の体温。
掴まれた僕の右手に重ねられているのは、色白で華奢な手。
右手から徐々に視線をあげるとそこに居たのはクラスメイトの
「 宮村くんでしょ?
僕の名前を確認しながら此方を見つめる姿は、流石 学年1、いや学校1と言われるほどの美しさだ。
だからこそ僕は疑問に思った。何故、彼女のような人気者が僕みたいな影の薄い人間に話しかけるのか。話しかけられるほど悪いことをしてしまったんだろうか。
考えれば考える程分からなくなっていく。とりあえずという形で、彼女の用件を聞く。
「 話が長くなるからファミレス行こ! 」
正直、小遣いはカメラ代に使いたいところだが、自分から問いかけてしまったため引くに引けず、言われた通りに着いていく。
ファミレスに入って席に着くと、開口一番に彼女は僕に言った。
「 私の人生で1番の笑顔を撮ってよ ! 」
頭の中に巡る数々の疑問。その中でも1番気になったことを問いかける。
「 なんで僕にそんな頼み事を?そもそも、同じクラスってくらいしか共通点なんてないじゃないか。写真部だから頼むと言うなら、風景を専門とする僕よりも、ポートレートを専門とするやつに頼んだ方がいい。 」
「 ぽーと、 、れーと ? よく分かんないけど、私は君に頼みたい、! 」
「 だから。大体、なんで僕なんだ。写真を撮るだけなら、君を撮りたい生徒なんて他にいくらでもいるだろう? 」
「 他の人が撮りたいのは、田島陽葵っていう人間。でも、私が撮って欲しいのは田島陽葵の笑顔なの。 」
僕には彼女の言いたい事が分からなかった。田島陽葵は同じ人間なのだから、技術のある人間や彼女に好意を持つ人間が撮ればそれでいいと思った。
けれど彼女は違かった。彼女は僕とは違う思考らしい。
今までの僕は、違う意見と衝突するのが面倒で、相対する意見の人は避けていた。だけど、何故かこの時はそれが面白く感じた。違う視点はどんな気持ちなのか気になった 。
そして僕は、柄にもない真面目で真っ直ぐな目をして彼女に告げた 。
「 僕は君の撮りたいものを撮るよ 」
一瞬の蒼 夏野天 @sora_natuno
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