パート4 罪人少女と水族館


 勢いよく扉が開けられる


「じゃーん! こんにちはー! えへへ。今度は私から会いに来たよー!」


「おっ、驚いてる。こっちからくるのは初めてだもんねー」


「さぁてここでひとつ質問です! 今の私にはいつもとひとつ違ったところがあります。それはなんでしょーか?」


「ふむふむ。はぁーいそのとおーり! さすが私のパートナー、よく見てるねえ。そう、いつもと服装が違うのです!」


「どう? このワンピース。ひらひらしててかわいいでしょー? ねぇ、どうしてこんな格好してるか、気になる? 気になるよねぇー?」


「実はねぇ、私、外出許可が下りたのー! 自由時間の間、外に出てもいいんだって! このワンピースも、よそ行きにって、職員さんが用意してくれたの!」


「まぁずっとじゃなくて、短期間の間だけだけどね。でもすごくない? もう長いこと施設の中にいたのに、お出かけできるようになるなんて」


「しかもそれだけじゃないの。なんとパートナーのあなたも、一緒に外に出られるの!」


「びっくりした? そうだよねぇ。二人でお出かけ出来るんだもんねー」


「うん、どうしたの? あー、今、私とデートできるって考えたでしょー!」


「わかるよー、だってそういう顔したもん。あなたってけっこう表情にでるタイプだし。ふふふ、わかりやすー」


「……まあでも、私もあなたとデートっていうのは……ふふっ。わるくないかな」


「というわけだから、早速出かけるよー!」


「大丈夫! デートプランは出来てるから。ほらほらいくよー!」


 二人で外を歩いて行く


「はぁーいここ! ここが今回の目的地。街の水族館でーすっ!」


「ふふふ。水族館なんて、施設にいたときは、夢のまた夢みたいな場所だったからねー。これてよかったー」


「ねぇ、あなたは水族館って、来たことある? そう、子供のころに。私は初めてなんだよね」


「うん。施設に入る前も、一度もないの。だから今回、あなたと一緒に、来てみたかったんだ」


「よし! じゃあもたもたしてないでいってみよー! えっ、入場料? あぁ大丈夫。実は施設の職員さんが、チケットをくれたんだよねー。意外と融通きくんだよね」


「だから心配ご無用! さぁ、いこー!」


 二人で水族館に入る


「うわー! すごーい! みてみて、水槽にお魚がたくさん! エビやカニもいるよー!」


「あはぁ、こうやって見るときれーい。いや、お魚さんなんて、もうずっと施設の食事で出てくる焼き魚しか見てなかったからさー。あ、もしかして、水族館で言っちゃいけないこと言った?」


「あはは、ごめんごめん。初めてだから勝手がわからなくて」


「あ、あっちにエスカレーターがあるよ。下の階にいくみたい。ねぇ、いってみようよ」


「うわ、見て、このエスカレーター水槽の中に作られてるんだ! すごいすごい! 天井が水の中だよ! あはっ、周りをお魚さんたちが泳いでるー! 私たち、お魚さんの群れの中を進んでるよ!」


「おっ、下の階につくね。いやーほんとにすごかったねー。つぎはなにがあるんだろう?」


「よいしょっと。この階は地下に作られてるんだよね? わー、なんか少し暗くて、雰囲気でてるねー」


「小さな水槽がたくさんある。ん、なにこの生き物? ダイオウグソクムシ? おっきなダンゴムシみたい。ふしぎー。水族館ってこんな生き物も展示してるんだね」


「うーん。なんだか見れば見るほど、シュールな形してる。なんかくせになるかも」


「えーっと、こっちの水槽はー? わっ、なにこれ。細長いお魚さんが地面から生えてる!」


「チンアナゴ? へーこういう変わったお魚さんもいるんだ」


「あ、こっちの水槽は大きいね。いったいなにが……ってうわ! なにこれ、脚の長いカニさん! タカアシガニって言うんだー。世界最大のカニだって。すごいねー」


「次は次は……あっ、あっちにすごくおっきな水槽があるよ! いこいこ!」


「うわー! すっごーい! なにこれ、壁一面が水槽になってる! しかも高いよ! うはは、お魚さんがたくさんだぁ! まるで私たちが海の中にいるみたい! きれーい」


「……でも、ここは、本当の海じゃないんだよね」


「いや、なんかさ、似てるなって思って。私と、この水族館のお魚さんたち」


「この子たちは、おおきな水槽の中をめいっぱい泳ぎ回っているけど、それは、本当の自由じゃない。泳ぎつづけるうちに、いつか壁にぶつかって、向きを変えて、また壁にぶつかって、それを繰り返す」


「次第に壁にぶつからないように、泳ぐ範囲はどんどん狭くなって、やがては窮屈そうに生きていくようになる……。うんざりして、疲れはてて、未来に希望が見えなくなって、そして、何もかも諦めてしまう」


「私はこうして、いま外に出ているけど、私の犯した罪は変わらない。また施設に戻って、狭い部屋の中ですごすことになる。ううん、施設に来る前からそうだった。人を殺す前からそうだった。私の人生に、初めから、自由も希望も無かった……」 


「……あっ、ごめんごめん! 変なこと言ってたね、私。最低だよね、あなたには私のほうから言って、付き合ってもらってるのに。こんな暗いこと言ったら、楽しい水族館が台無しだよね!」


「うん、よし気を取り直して、さあ進もーっ!」


「あっ……」


 立ち止まる


「あ……ごめん。いや、ほら、向こう側に家族連れの人がいてさ……」


「あはは、そうだよね。水族館だもんね。親子でくる人もいるよね……」


「うっ……。うぅっ……」


 彼女の目から涙がこぼれる


「ぐすっ……。ごめん。あなた、一人で回ってて……」


「私……もう帰るから……」


 涙を拭いながら、彼女は走り去っていく


 

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