パート3 罪人少女と花壇の手入れ
扉が開き、閉まる音
「あ、きたきた! こんにちはー! また会えてうれしいよー!」
「ふふふっ。あなたとまた会えるの、ずーっと楽しみにしてたよ」
「それとねぇ、実は今日、あなたとやりたいことがあるの!」
「うん!今日この時がくるまで、考えてたんだよね」
「なにをするのかって? それはまだ秘密。ただこの部屋のなかじゃできないことだよ」
「というわけで、早速外へでよー! ほら私の手を握って! 案内するから!」
二人は手をつなぎ、部屋を出る
「はーい、とうちゃーく。ここ! あなたとここに来たかったの!」
「ここはね、施設の裏庭だよ。収容者たちが外の空気を吸って、休憩するために作られたみたい」
「といっても、見ての通り、ずいぶん荒れ果ててるけどねー。みんな自分の部屋に閉じこもりぎみで、ここに来る人はほとんどいないみたい」
「それで、施設の管理を担当する職員たちも、手入れをサボってほったらかしってわけ」
「つまり、この裏庭は、誰からも忘れられて、見捨てられた場所なんだよ。誰からも顧みられない。誰からも愛されない」
「……私と同じ」
「だからそんなかわいそうな裏庭を、私たちで手入れしようと思って! ねぇ、一緒にやってくれるよね?」
「ほんと? やったー! ありがとう! あなたってほんとにいい人だね!」
「よーし、それじゃまずは草むしりからしようか! 長いこと放置されて、そこら中ぼうぼうだからね」
「じゃあ私はこっちからやっていくから、あなたは反対側からね。レッツゴー!」
二人で草をむしっていく
「むしむし、むしむし、うーんすごい量。でもがんばってきれいにしないと」
「あなたは大丈夫? うぉ、すごい勢いでむしってる。もしかしてこういう作業得意だったり?」
「そうかそうかぁ。いやぁ頼りになるねぇ。よし、私も負けてられない。もっとがんばるぞー」
「むしむし、むしむし。ん? これは……」
「うわー! ねぇみてみて。これ、この草のてっぺんに咲いてるお花に、コガネムシがいる! お花の蜜を吸ってるのかなぁ」
「え、ハナムグリっていうの? コガネムシの仲間に、そんな種類があるんだ。へぇー、君詳しいね」
「あぁ、私? うん。全然虫だいじょうぶだよー。だってかわいいじゃん。このコガネムシ、じゃなかったハナムグリも、この青い身体とかきれいだし」
「うーん。よし! この花はむしらずに残しておこう! 虫さんのすみかを奪っちゃかわいそうだしね」
「さて、気を取り直していくよー」
おおかた草をむしり終える
「ふぅー、こんなとこかな。だいぶきれいになったね。うわ、すご。むしった草が山になってる」
「ん、どうしたの?」
「なに? なにかあるの? あ、ここ、もしかして前は花壇だったのかな。地面がレンガで区切られてる」
「そっかー。花壇が放置された結果、草だらけになっちゃったんだねぇ。むしってきれいになったのはいいけど、なにもない花壇っていうのも、なんか哀しいね」
「うーん。あ、そうだ! ねぇちょっと待ってて!」
向こうへと走って行く
「お待たせー! はぁはぁ……。ごめんね、急にどこか行っちゃって。部屋に戻って、これを取りにいってたの」
「これはね、お花の種だよ。前にこの施設にボランティアの人たちが来たことがあるんだけどね、そのときにくれたの」
「これをもらったときは、こんな施設に閉じ込められてるのにお花の種なんてもらったって、なんにもならないと思ってたけど、まさか役にたつときがくるなんてね」
「これを植えようよ! もしかしたら綺麗な花が咲くかも」
「うん。はい、これがあなたのぶん。これが私」
「よし。じゃあ植えていくよ」
「うんしょ、よいしょ。軽く土を掘って、種を入れて、優しく土をかぶせて、っと」
「うん。これでいいかな。そっちはどう? 植えられた? うん。オッケーだね!」
「ふぅー。つかれたー。こんなに身体動かすのひさしぶりだよー」
「ん? あれ、あなた右手の人差し指、なにか血でてない?」
「うわー! 大変! ケガしてるじゃん! 草をむしったときに切っちゃたのかなぁ……」
「手当しなきゃ! ついてきて!」
二人で駆け出す
「ここは外の手洗い場だよ。その傷口、しっかり洗わないと。ほら」
蛇口をひねり、水を出す
「右手、私にかして」
手を取り、傷口を洗い流す
「うん、これでいいかな。きれいになったと思う」
蛇口を閉める
「あれ、でもまだ血、止まってないね。うーん……」
「あむっ」
人差し指を咥える
「んっ、んぅ……ぷはっ」
「ふぅ。よしこれで……。ん? なにって、傷口をなめれば、血が止まると思って。あっ、なぁーにぃ、照れてるのぉ? ふふっ。あなたって、照れ屋なんだね」
「うん。血、止まったね。これでもう心配いらないね」
「さてと、そろそろ時間になるかなぁ。あなたと交流するのは楽しいけど、その分時間がすぐ過ぎちゃうみたいで、なんだか悲しいかも」
「でも、また会えるから、それまで我慢か。この名残惜しさも、ある意味私に与えられた、罰なのかもしれないね」
「うん。そうだね。つぎに会える日を、楽しみにしてる。あなたも、楽しみに待っててくれるかな?」
「……そっか。そうなんだ!私も、とってもとっても、楽しみにしてるよ!」
「……私たちが植えたお花、いつか、咲くといいね」
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