パート1 罪人少女の耳かき


「さぁーて、こうして同じ部屋に二人きりになった訳だけどぉ」


「うーん、何すればいいんだろう」


「この部屋狭いし、特に遊ぶようなものもないしねぇ。せめてテレビくらいあればいいんだけどねぇ」


「犯罪者をあんまし自由にできないのはわかるけど、ちょっと厳しいよね」


「なにかなにか……。あ、そうだベッドに横になってみる? ごろごろーって」


「え、なに遠慮してるの? もしかして、女の子のベッドだからって気にしてる?」


「大丈夫だってぇ。私そういうの全然平気なタイプだから。ほらきてきて」


ベッドに近づく


「そりゃいけ! ごろごろーっ!」


 ベッドの上をごろごろ転がる


「あはは! なんかかわいいー。猫ちゃんが遊んでるみたーい」


転がるのをやめる


「あれ、なんでやめちゃうの?あ、もしかして、ベッド硬かった……?」


「あ、あはは……。まあこんな施設で用意されてるベッドだからねぇ。ふかふかではないね」

 

「はぁ、ごろごろ遊びは駄目かぁ。なにか他にないかなぁ」


「うーん。あ、これだこれだ! これがあったよ!」


「じゃーん!耳かき! 竹製のやつー。ねぇ、私があなたに耳かきしてあげるよ!」


「えっ、なに照れてるのー? 気にしないで、私そういうの全然平気なの!」


 ぼすっと音をたててベッドに座る


「はい、どうぞ。ほら、膝枕してあげる。あ、やっぱり照れてる。なにしてるのぉー、私のベッドでごろごろしたんだから膝枕くらい平気でしょー?」


「ほらきて。ぽんぽん」膝を優しくたたく


 彼女の膝枕に頭をのせる


「ふふふ、来たねー。それじゃまず右耳からねー。いくよー」


「えーっと、耳の外側から、優しくーっと」


 耳の外の部分を、耳かきで優しく撫でていく


「すりすり、すりすり。どう? 気持ちいい? うん、その顔を見ると、なかなか気持ちいいみたいだね」


「んふふ。なんか楽しい。よくよく考えたら、私だれかに耳かきするのなんて初めてだ」


「耳かきって、される側が気持ちよくなるのは知ってたけど、する側も気持ちいいんだね」


「よし、外側は終わり。次はいよいよ中にいくよー」


「せーのっ。傷つけないように、優しくっと」


「えいっ。あ、入っちゃたぁ。どう、わかる? 今、あなたの耳に耳かきが入ってるよー」


「えっと、じゃあこのまま、耳かきで耳の壁をっと」


 耳の中を撫でていく


「かりかり、かりかり。おぉ、外側とは感触が違う。なんかしっとり? してるよ」


「あ、びくびくしてる。気持ちいい? やっぱり中は敏感なんだー」


「かりかり、このまま掻いていくねー」


 優しく耳への刺激を続ける


「かりかりーっと。ん? なにか見えるよ。これは、いわゆる耳垢というやつ?」


「なるほどー。これを耳かきの先で引っかけて、とればいいんだね。よーし腕の見せどころだ」


「くすぐったいかもしれないけど、じっとしててね。いくよーっ」


 耳垢を耳かきで掻く


「えいえいっ。よし引っかかった。このままゆっくり」


 耳垢を剥がしていく。


「そーっと。持ち上げて……とれたっ」


「あはは、見て! おっきいのとれたよー! うわーなんか達成感すごい!ねぇ、あなたも気持ちよかった?」


「そうかそうかぁ、それはよかった。いやー耳かきってこんな楽しいんだねー」


「よーしっ。じゃあ右耳はこれで終わりっ! 次は左耳いこうかー」


「はい反対向いて。ごろーん」


 反対を向いて、左耳を上に向ける


「ん? この体勢、あなたの顔が私のお腹のほう向いて……な、なんか恥ずかしいね……」


「と、とにかく! 左耳、いくよっ」


「まずは外側からっと」


 左耳の外側を耳かきでやさしく撫でる


「すりすり。あれ、なんかさっきより反応がおおきい。もしかして、左側のほうが敏感だったり?」


「ふーんそうなんだぁ。同じ耳なのに左右で感覚が違うなんて、なんだか不思議」


「よし! じゃあその敏感な左耳をたっぷり掻いていくとしようか!」


「それじゃ、早速中にいくよー」


「えいっ」


 耳かきを中にいれる


「ふふふ、パートナーさん、こんなこと許していいのかなー?」 


「なにがって、あなたは今、私に耳の中を好きにされてるんだよ?」


「忘れてるの? 私は人殺しなんだよ。こうやって、耳かきをしているうちに、私があなたに殺意を抱いたら……」


「耳の中に入れたこの耳かき棒を、力づくで奥のほうに……ずぶりっ!」


「……ふふっ。なぁーんて、そんなことするわけないじゃーん!あ、怖がってる!なぁに本気にしちゃった?」


「大丈夫だよ。私今とても楽しいからさ。こんな楽しい時間を、滅茶苦茶にしたりしないよ」


「さぁ続けるよー。かりかり、かりかり」


「うん、こっちの耳は綺麗だね。見たところ、さっきみたいな耳垢もないみたいだし」


「じゃあマッサージするみたいに、軽く撫で撫でしていこうか」


 やさしく耳の中を撫でていく


「かりかり、撫で撫で。かりかり、撫で撫で」


「よし、と。これでいいかな。後は……」


「あっそうだ! 耳かきの反対側についてるこれ! 白くてもふもふしてるやつ!」


「えーっと……なんて言うんだろ」


「えっ、ぼんてんって言うの? そうなんだぁ初めて聞いたよ。あなた詳しいんだね」


「じゃあこのぼんてんちゃんで、最後に中をマッサージしていくね!」


「ふふっ。ぼんてんって、なんかかわいい名前」


「いくよ。えいっ」


 ぼんてんを中にいれ、くるくると回していく


「ふわふわ、ふわふわ。どう、気持ちいい?」


「そう。よしよし。それじゃぼんてんちゃんを抜いて……っと。はい、これでおしまい!」


「ねぇねぇ。どうだったどうだった? お耳すっきりした?そっかーよかったよかった」


「いやー楽しかったー! 私耳かきなんて初めてだったから、とっても新鮮だったよー」


「これもあなたのおかげだね! パートナー制度も、案外わるくないかも!」

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