33:気の回りすぎる男
「ねぇリアン。あなた、リアラ・カースンという方を知ってる?」
「リアラ・カースン、ですか?」
「ええ。向こうは貴方のことを知っているみたいだったけど」
「名前は知っていますが面識はないかと…」
「そう」
少しの沈黙にリアンがこちらを何度か伺い見てくる。まるで叱られ待ちの犬のようでちょっと面白い。
でも何故彼女はリアンを知っていたのか。共通点や接点を探してみても思い当たるものは何もない。
「今は考えても仕方ないだろう」
見兼ねたアドルネアの言葉にそれもそうねと思考を中断した。考えたところで思い当たらないのだから無意味だ。
ゆっくりと馬車の速度が落ち始め豪奢な造りの屋敷の前で停まる。
御者が馬車のドアを開けてくれたことで最初にアドルネアが降りた。
本来ならここでリアンが降りなくてはならないが最初に奥に押し込めたこともあり、アドルネアと私の前を遮り降りる訳にもいかずで焦っているようだった。
リアンには今度順応性の訓練をさせる必要がありそうね。
このままでは大事な時に判断を誤る。
時と場合によっては自分の立場を捨てる必要もあるのだと知ってもらわなくては。
「お帰りなさいませ」
「ありがとう。彼女を応接室に」
屋敷内に踏み入れるなり多くのメイドが出迎える。アドルネアは執事に声を掛けながら一人服の色が異なるメイド、恐らくハイネ付きの侍女なのだろう女性に鞄を預けた。
先に私に応接室に行くよう促すと侍女をを連れて奥へと消える。
それに私は違和感を覚えた。
普通は逆ではないかと思ったからだ。
執事を連れてではなく侍女を連れていた。そして私の案内は執事がする。
あ…。そうか、リアンがいるから。
彼はほぼほぼ屋敷内から出ないためこうして他の家の執事を見る機会はあまりない。
ほんの少しでも彼に学ぶ機会をくれたのだろう。
なんて気の回りすぎる男なの。ありがたいけど。
本当の執事になるわけではないとしても、今この瞬間は見習いだ。少しでも多くの経験を積み活かさなくてはならない。意図に気が付いたのかリアンも案内役となった執事の背を見ている。それは恐らく彼も気が付いているのだろう。気にする様子はないが分かりやすく観察対象に徹してくれている。
「こちらでお待ちください。既にマリアーネル家ご夫妻はお揃いです」
私より両親が早いって何…。それ確実に私が遅刻しましたになるよね?え?授業があったんだから仕方なくない?仕方ないよね?
ちらりと横目に執事の方を見たが笑顔を返されるだけで、ノックを数回した後で無情にも扉を開けた。そしてどうぞ、と促される。
こちらに向く両親の視線は柔らかいが、咎めないことこそが咎だとも知っている。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「いいのよ。トラブルがあったのでしょう?仕方ないわ」
二人の顔を見れば何かを察しているような表情をしていた。
え、なんで…。
「先にアドルネア家御子息のハイネさんから伝達を受けていたのよ。不足の事態で遅くなる可能性があるって。だから遅めに、ということだったけど思ったより早く着いてしまったの」
なるほど。つまり到着時にいなくてと無礼としないでください、ってことね。だとして本人は今部屋に行ってしまったみたいだけど…?いいの?
段々と理解してきたがそれでもまたしても敢えて待たせるように部屋に向かった意味がわからなかった。恐らくまた何かあるんだろうけど。
内心で小さな溜息を吐くと母の隣へと座る。するとすぐに目の前にはハーブティーが差し出された。
「紅茶はお気に入りがあるようだと伺いましたので」
何も言ってないのに。
恐らくこれもアドルネアだろう。
まるで一部始終を観察されているようで気が気じゃなくなる。それだけの観察力がないとこの家では成り立たないのかもしれないけど…。それに私は内心でもう一度溜息が漏れてしまった。
流花とルカはお断り 〜婚約?悪役令嬢?ごめんなさい、私あなた達のこと存じ上げないの〜 アメノチハレ @amekochihare_no
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