33-2:人のプライバシーは守りましょう。
「マリアーネル様!アドルネア様!」
案の定走ってきていたのはリアラだったようで、リアンを無理矢理馬車に押し込んでおいて良かったと安堵した。表に出そうになるそれを押し込めつつ、リアラに向き直る。さも今馬車に乗ろうとしてたことを示すように。
「そんなに慌ててどうかしました?急ぎの用などないかと思いますけど」
勿論嫌味は忘れない。こちらはリアラに用などないのだから。
しかしそんなものは微塵も通用している気配などなかった。それどころか物凄い形相でこちらを睨んでいる。
ああ、これは確実にめんどくさいやつだ、と内心でため息をつく。そうこうしている間にリアンが馬車の扉を開けて出てきたらと気が気ではない。賢い彼のことだから何かを察して大人しくしていてくれるだろうが、ただ今リアラがいる状況では確実に馬車に乗り込むことは出来ない。
扉を開けたことで万が一中が見えてしまったら。
確実にバレる。馬車の中では最早隠れる場所などどこにもない。奥に座って小さくなろうと無理だ。
アドルネアは何があったかなど知る由もないため目配せしたところで気付きもしない…と思ったが、リアラがくる前にリアンを押し込んだことでなんとなく何かを察したようだ。馬車の前を陣取ってこちらには気付かないふりをしていた。
なんて察し能力が高いのこの男。
「あの、今日、マリアーネル様のお宅にお伺いしたいんです!」
「お約束のない方をいきなり招くほど私に品位がないと?」
「そうじゃなくて!あ、ええと!魔法を教えて欲しくて!」
「教えを乞う相手なら講師室に行けばいくらでもいらっしゃるから声を掛けてきたらいかが?」
「でも光属性を使える先生はいません!」
「それで言うなら私も光属性は使えないのでお教え出来ませんね」
最早無の笑顔を顔に貼り付けたままでただただ言葉を返す。
しつこすぎる!!!
本当にしつこい!なんなの?え?私の話そんなに理解出来ない?言葉が通じないの?何語なら通じるの?紙にでも書かないとダメなの?それとも脳に直接話かけるぐらいじゃないと無理なの?
後ろではアドルネアが笑ってるしユックは睨んでくるし。私のせいじゃないでしょ。睨むぐらいならなんとかして。
…ん?
良いことを思いついた私はアドルネアの方へ寄るとそっと耳打ちをした。
「ユック、今日はこのままマリアーネル嬢と少し予定があるから側付きは必要ない。カースン嬢を送ってやれ」
「え、いや、それは流石に…」
「邪魔をする気か?」
「そんなつもりでは…」
「ならいいな。早く送ってやると良い。ルカ、行こう」
アドルネアはそう言って私に手を差し出した。エスコートの合図を受け私もその手を取る。そして馬車の前に行くとユックは困ったように、しかしどこか嬉しそうにリアラの方へ行き鞄を受け取っていた。
そのままリアラの手を取り歩き出すユックに引っ張られるとリアラはその場を強制的に後にせざるを得なくなる。
何度かユックを静止する声がしていたがそれは徐々に遠ざかる。大分離れたところで私とアドルネアは馬車へと乗り込んだ。
アドルネアにユックをけしかけるよう言ってみて正解だった。
リアラが好きな彼ならアドルネアの命令であれば嬉々としてそれを受け入れる気がしたのだ。
事実表面的な渋りを見せられたものの早々にリアラの手をとっていた。
この世界の男は簡単に本音など出せない決まりでもあるのかと言いたい程に遠回しである。
まあ何はともあれこの場から引き離せたのだからなんでも良いけど。
「アドルネア様、ありがとうございます。助かりました」
「構わない。折角だ、本当に寄り道でもするか?」
「結構です。出来れば早めに用件を済ませて帰りたいので」
そう伝えたところでリアンが気まずそうにしているのに気が付いた。少し申し訳ない気はしたが彼には黙ってこのままアドルネアの隣に居てもらおう。どうせ最初から一緒の予定なのだし座る位置が違うこと程度位で無礼などと思うほど心は狭くない。
既に疲労は濃い。一刻も早く家に帰りたいがそれも叶わない。盛大なため息をつくことくらいは許してほいものだ。
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