32:そもそもの話をいたしませんか?

 様々な疑問や、伺いたいことがある中でそれを無視していったん食事を済ませる。

 お昼ごはんなしで午後の授業など受けたくはなかったからだ。


「先程魔物と仰ってましたが、どのような魔物だったのですか?現れた領地は?」


 父から魔物の出現については何も聞いていないしうちの領地からの派遣はない。となると近隣ではない、と思っている。

 それかまだ境界を超えていないため様子見としているのか。だとしても目撃情報だけは耳にしても良さそうなのだが。


「中型に近い小型だそうだ。私もまだそこまで詳しくは聞けていないが、今日明日で正式に報告が上がると思う。現れたのはカズイール領の所有する山地の境界手前だ」


 なるほど。やはり境界は超えていないのか。それでも中型に近いならば報告を聞いてもおかしくはない。

 カズイールは近くはないが遠くもないが、あそこは地形が山に囲まれているためにどこに危害が及ぶか予測が難しい場所だ。


「中型に近いということでしたが獣ということでしょうか」

「獣とは少し違うらしい。人型でもないらしいし少し難しいところだな」


 なるほど。それもあって皆揃っての判断、ということね。

 私たちだけで話し合っても意味はない。だけど私の闇魔法がどれくらいのもなのかなどは関係あるのだろうか。それとも、その魔物が光属性だったということ…?魔物で?


「アドルネア様、魔物の属性についてですけど…」

「マリアーネル様、お食事中に申し訳ありません」

「貴女は…」


 いつかリアラが私を孤立させようとしていると話していた女性がそこにはいた。足音もさせずそっと現れた彼女。話は聞こえていなかったとは思うが警戒はする。しかし表情を見るに特段気にした様子は見えなかった。

 私は食事の手を止め席を立つとアドルネアもと席を立つのを制し彼女の元に行く。少しだけ離れた位置で呼んだのはきっと私だけへの用事だろうから。


「マリアーネル様、こちらを」

「イヤリング…?これ、魔道具ね」

「先日、お越しいただけませんでしたから」

「ああ…あの時の…」


 先日彼に呼ばれたのはこれのためだったのか。そういうことならちゃんと言ってくれれば伺ったのに。

 有名な錬金術師、グレニール・ラルド・シルフィード。

 彼女はただの意識のような、ただの媒体。どうやってここに、と思ったが、マキアムの気配も感じた。

 ひょっとして彼が媒体になっているのだろうか。それとも彼の魔力を触媒としているのか。後者の気はする。


「貴女は意識の具現と思ってましたが、魔力の幻視だったんですね」


 口元に人差し指を立て笑みを浮かべる女性。それは少し不気味なものに見えた。


「そのイヤリングは貴女の魔力を洗練させる。離さず持っているといいですよ。では」


 そう言って数歩下がると同時に薄まる気配と、遠ざかる男子生徒の後ろ姿。何故またあの姿で、彼を使ってなのかと思ったが、外には出られない何かがおそらくあり、このイヤリングも、今渡さねばならない理由があったのだろう。


 帰りでもよかったんじゃない?と正直思ったけど。


「未来予知でもあるのかしら…だとしたら、随分ね」


 そう溢し戻ろうかと振り返ったところでアドルネアが後ろにいたことに気が付きびくりとしてしまった。音もなく背後に立つのはやめてほしい。危うく手が出そうになるから。


「アドルネア様?どうかされましたか?」

「誰からの贈り物だ?」

「え?」


 手元のイヤリングを指差すのを目で追い気付いたが既に遅く、それは彼の目に触れてしまった。

 あー。婚約者がいる人にアクセサリーなんてご法度なんだった…。と嘆いたところで仕方ない。見つかってしまったのだから。

 だから何故今渡したの本当に!


「彼女は…」

「グレニール殿、だろう。知っている」


 …!!!?待って。この人実は怖い人?なんでも知りすぎでは?公爵ってそんなもの???流石にそろそろ本気で情報過多なんだけど?

 何も言えずに彼を見ていたが頭を撫でられたことでハッとした。まさかそんなことをされると思わず許してしまったが、その手を止める。


「度々彼に魔道具を依頼している。さっきも魔道具を使っていただろう」

「ああ、あれ…。ひょっとして、彼女の姿でやり取りを?」

「いつもそうだな。本来の姿は見たことがない」

「アドルネア様でもないんですね。あ、と…、そろそろ午後の授業が始まりますね。戻りましょうか」

「ああ、そうだな。君の闇属性についての詳しい話はまた帰りに」


 そうだった。別の話にすり替わってすっかり忘れていた。


「私はそこまで大きなものを使ったことはないので、正直どこまで使えるかわかっていません」

「…魔力量は」

「計測したことはありませんが多いほうかと」

「なるほどな。魔力計測はすべきだ。手配しておく」

「わかりました」


 あまり食べることのできなかったお昼。片付け…と思ったがそれは既に綺麗に片付きアドルネアの手元にあった。

 今更だけど似合わない。とても似合わない。

 思わずくすくすと笑ってしまった私にアドルネアは手元を見て眉を顰めた。


「仕方ないだろう…。メイドもユックもここにはいないのだから…」

「そうですね。二人で話す必要がある、と判断されたのでしょうし」


 まあ、殿下の身分なわけではない。その位は使用人でなくてもできるしすべきでもあるとは思う。ああいったものがここまで似合わない人も中々いないとは思うけど。学生なんて本来はそんなものだ。


 張り詰めていたものが溶けたようで私は足も軽く教室へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る