31:だから、情報過多なんだってば。

「マリアーネル様、」


 一通りの午前の授業が終わり片付けをしていたところに名を呼ばれて顔を上げる。

 リアラに度々吠えている令嬢が声をかけてきていたが、視線をちらちらと入り口に向けるので私も自然とそちらを見た。

 そこにはハイネ・アドルネアの姿。目が合ったことに気付くと軽く片手をあげ、私を呼んでいるのだとすぐにわかる。


「どうされたのでしょうか」

「いや、昼食を一緒に、と思ったんだが、嫌か?」

「わかっている回答を聞きたいのであればお答えしますが」


 にこりと笑顔で答える。

 そうきっぱりと言い放った私に対して後ろがざわついていた。何が言いたいのか察しているようだった。オブラート?十分包んでるでしょ。

 アドルネアはそれに対して一度周りを見ては私の手を取った。


「行こう」

「はあ…。仕方ないですね」


 この誘いが何を意味するのか、断ればどうなるのかなどはなんとなく想像がつく。前の私なら嫌だって言ったの聞いてた?ぐらいは言っていただろう。今は流石に言えない。そんな労力も立ち消えているが。

 手を引かれるままに歩き出す。考えたらお昼教室に置きっぱなしだ。え、どうしよう。


「ルカ、最近魔物が出たという話は聞いたか?」


 いつぞや足を運んだガセポで椅子に座ったところで声を掛けられた。アドルネアはやや大きめのボックスをテーブルに置き広げているところだった。

 ランチボックスと言っていいのか怪しいほどに豪華に見えるそれはもはやちょっとした重箱にも感じられる。それ、残したら許さないわよアドルネア。


「いいえ、何も」

「そうか」

「…?それが何か」


 何か、ではない。魔物って何!?いや、書物では読んだ。

 魔女と聖女が〜とかなんたらかんたらで読んだけど!実際に聞いたらどんななのかも想像つかないし怖い。

 出たってことは付近にってことよね?もともと魔物はいる。

 ただ付近にということはなく、彼らには彼らの領域があるというか、こちらから近付かない限りは早々現れないはずだった。

 魔物といえば関係なく襲ってくるイメージを持つかもしれないが、不思議なことに攻撃さえしなければ襲われたりはない、不思議な関係を保っている。いや、出会えば襲われることもゼロではないらしいけど。それにしたって随分と急な話だ。

 というか、前振りなっっっが……。

 何?私が魔物の話を聞いてるか聞いてないかがそんな大事なの?

 聞いてないと答えただけで沈黙して食事の準備に戻るって何!?

 せめて一言は答えろ!

 そういえば私の知る小説ではファンタジーものとかではよくモンスターとか魔物とか出てきてたな。

 なんて、段々と現実逃避をしてみたり。


 手元にサンドイッチを差し出された。そしてフォークを手前に置かれ、取り皿も用意される。

 あ、これ二人分だったのか。


「君は闇魔法をどのくらい習得している」

「は?…じゃない。どういうことでしょう」

「構わない。咎める者もいないだろう」

「そういえば今日も連れてないんですね」

「ああ。ユックならカースン嬢のところだ」


 なるほど。

 彼は相当リアラに傾倒しているのね。


「足止めにはなるだろ」

「ああ、そういう」


 つまりは邪魔されたくないので二人して適当なところでぐだぐだしてろ、ってことね。


「で?どのくらい使えるんだ」

「アドルネア様。容易くこういう場でその属性が使用できることは控えていただけますでしょうか。闇魔法が特殊な属性であることはご存じですよね?」


 それに対しアドルネアはふと一つの小さな箱を見せる。それからは魔力は感じないものの波を感じて、何を示すものなのかが分かった。錬金術で作られた魔道具だ。


「防音はしてある、大丈夫だ」

「そうですか…だとしても学園内でする話ではないと思いますが」

「夕方には当家でマリアーネル家含め話し合いの時間となる。その前に知っておきたい」


 何それ。聞いてない。

 ということは授業が終わったら私は彼の家に行かなければいけないってこと?そんな予定朝聞いてないから行かなくていい?ひょっとしたらカーリカが話していたのかもしれない。最近疲れすぎていてぼんやりしているせいで忘れてしまう。聞く気はある。勿論。


 私は闇魔法を使ったことがない。と、思う。幼少期には覚醒していたことは聞いているが、成長してから使用したことはないため正直どこまで使えるかなんて知らないのだ。


 とりあえず落ち着こうといったん手元にあったサンドイッチを食べた。めちゃくちゃ美味しい。すごい。トマトの水分が損なわれておらず甘みがしっかりあるのに、パンが負けていない。さらにはピリ辛のソースの味が食欲を増進させ、ついつい食べる手が止まらなくなる。もう一つと手を伸ばして取ったところで、アドルネアが笑いを押し殺しているのに気付いた。

 なによ…。

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