33:はっきり言う子も嫌いでした。

「そろそろ授業が始まると思うけど」


 時間的にもそろそろ来てもおかしくはない。

 寧ろ遅いとさえ思う。

 この時間から解放されたすぎるせいだろうか。


「マリアーネル様は、」


 まだ居たのこの子、と呆れたような視線を向けた時、リアラがこちらを強く睨んでいた。

 目が合うとそれはより厳しい表情へと化す。


「リアン・アルテハイドという方をご存知ですよね」


 リアン・アルテハイド。それは今日連れていた執事補佐の名前だ。

 何故リアラが知っているの?

 何より、彼が実は貴族というのは隠していることだ。

 ましてやアルテハイドの家の者だということは特に秘匿とされている。

 マリアーネル家でもごく一部しか知らないはず。それを彼女が知っているのはおかしい。


「さあ?知らないわ」


「そんな訳ないです。マリアーネル様の執事でしょ!?」


 執事?彼はまだ執事補佐であって執事ではない。それに私には専属は居ない。よって彼はお父様の専属執事の補佐をしている。

 そのため外に出ることは少なく、あってもやむを得ない買い付けに行くことがあるだけ。

 理由は外に出せない存在だからだけど。


「リアラさん、何を言ってるかわからないのだけど、授業も始まるし席に着いたらいかが?」


 しらを切り通そうとする私をさらに睨んでくる。一体なんだというの。

 それよりその眉間の皺、そろそろ取れなくなるんじゃない?


「マリアーネル様が困ってるのが見えないのかしらこの小娘は」


 え、誰。

 ワインレッドとも言える少し濃いめの髪色をした令嬢が割って入ってきた。

 ストレートでサラリとしたその髪は髪色も相まってとても目を惹かれる。

 手入れが行き届いているのがよくわかる。キラキラとしていて思わず触りたくなった。

 顔立ちは目力が強くてそこにばかり目がいきそうになるが、顔面力つよ……。その一言に尽きる。


「貴女には関係ありませんよね?」


「関係ありません。ないからこそ、目の前で困ってる方に対して非常識に詰め寄る貴女が見苦しくて目障りに感じましたの」


 ゴリゴリのお嬢様言葉にこの子何歳なの?と聞きそうになった私は人のことが言えなかった。

 というか、言葉きつ…。

 私は巻き込まれないよう大人しく教科書を用意するふりをして我関せずを貫き通そうと決めた。


「私はマリアーネル様に確認したいことがあって声を掛けただけです」


「迷惑をかけているの間違いでは?マリアーネル様は存じ上げないとおっしゃいましたよね?それを貴女はしつこくお声掛けをして迷惑者以外の何者でもありません。非常識です。空気も読めないお馬鹿さんなら教室の隅ででも小さくなってたらよろしいのでは?」


 きついきついきつい!!同じこと思ってるけどはっきり言い過ぎ!

 顔面力の強さもあるせいで圧がすごい。


「…酷い。マリアーネル様もそう思ってるんですか!?」


 はい、巻き込まれましたー。なんておちゃらけている場合ではない。

 ここは教室だ。周りの視線も集まっている。


「授業初めてもいいか」


 なんと言おうかと困り果てていた時にその声は響いた。

 まさに救世主と言わんばかりのタイミングだ。

 ラドル先生には感謝とばかりに私は二人へと笑みを向ける。


「取り敢えず、席に着いたらどうかしら」


 そう告げると二人は睨み合った後でその場から離れていった。

 あの顔面力の強い令嬢、誰だっただろう。

 考えても名前が出てこず首を傾けていたが、何はともあれ彼女には近付きたくないと本能が言っている。

 確実に巻き込まれる。

 あのはっきりしすぎる物言いは敵しか作らない。

 それはどちらの私でも知っている。


 それにしても、何故リアラはリアンのことを聞いてきたのか。

 帰ったらお父様に報告が必要ね。

 そう考えていたところでラドル先生に問いを求められたため思考を中断した。

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