32:私、はっきり言わない子は嫌いです。
席に着くと先程のことを考える。
あの立ち回り方…恐らく何かの意図があるとは思う。
あの場で糾弾されなくてはいけなかったこと。
周りにいつも彼女が媚を売っている人達がいたこと。
でも私がいたことは予想外だった…ということ。
なんとなくの違和感。
何がしたいのか見えないし、とても浅慮。
本質のところで馬鹿なのかと人に思わせるような行動。
あれはあの場でやらなくてはいけないことだった…?
そこまで考えたところで隣に立つ人の気配に気が付いて顔を上げた。
「マリアーネル様、あの…さっきは申し訳ありませんでした」
「なぜ私に謝るの?」
「マリアーネル様の懐中時計を壊してしまったので」
それを、なぜ、今ここで謝るの。
「先程、それは私が貴女にあげたものと言ってたと思うけど」
「あ…ええと」
「それならそれは貴女のでしょ。なら好きにして良いと思うわ」
「え…あ、そうじゃなくて、」
なぜかリアラは言いにくそうにもごもごとしている。
はっきり言ってくれないと何もわからなければ理解もできないし返す言葉もない。
「なら、何?」
きつくなるのは仕方ないと思って欲しい。顔に出さないだけマシでしょ。
「確かに私のなんですけど、頂いたものを壊してしまったので、…あの、これを制作した方に直していただきたくて…」
つまり?私に、再度それを作れ、と言ってる?
「はっきり言ってくださるかしら。何をお望みなの?」
「この懐中時計を作った方に会わせていただきたいんです!」
…目の前にいるけど。
何を言ってるのか全くわからなくて私は思わず彼女を凝視した。何を言ってるのかわからないのはいつものことだけど。
「それは私が作ったものだけど…」
「え?…嘘ですよね?懐中時計なんて作れるわけ…」
「作ったとは少し違うわね。それ、誰でも簡易で作れないか試したくて用意したものなの。だから私が組み立てた、が正しいかしら」
「誰でも…?懐中時計のキットなんて聞いたことない…」
この世界にもあるの?キットって。
実はこの懐中時計は某大手のパーツショップにあった簡易時計キットみたいに手軽でオリジナル性のある物を作れないかと思い試しにパーツだけ集めてみたのだ。案外組み立てには時間はかからなかったが、それは流花の時の趣味のおかげだと思う。
アクセサリーとか作るの好きだったのよね…。センスはなかったけど。
「これ、お家の方が作った物とかじゃないんですか?本当に」
お家の方って。言い方が随分と稚拙だ…。この子前からこんなに稚拙な物言いだった?年齢的にはありえなくないこと?ああでも、そうね。屋敷の者とするなら家族ではないし、屋敷の誰か、と聞きたかったのかしら。
「聞いてますか?」
「聞いてるわ。私が組み立てたと言ったでしょう?」
貴女こそ聞いてるの?とでも言いたげに返すと彼女は黙り込んで踵を返した。
なんなの…ほんと…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます