30:最初の印象。変わった印象。

 私がルカとして、そして流花として登校した日は彼女があんなだとは思っていなかった。

 私自身がこの世界では気軽に話しかけられる身分ではないなんて気付いてなかったし、彼女は少し引いた感じで話しかけてきた。

 だからうっかり良い子がいて良かった、なんて思ってしまったが、昼食の一件で彼女を近付けてはいけないと学んだ。

 彼女は自分の立場を理解している。理解した上でどう振る舞えば周りが自分を意識するかを知っている。

 つまりは煽り上手なのだ。

 煽り上手な人は被害者面する上に自分の思い通りになっていると思い込んでいる節がある。

 なので絶対に関わってはいけない。ストレスでしかないから。


 なのにあの日の私は関わってしまった。

 良かったなんて思ってしまった。


 それより前の記憶も今では思い出せるが、あの時はそんなものは忘れきっていたのだから仕方ないと言いたいけど…。


「元から私を嫌いとかではなくて、何かをしたそうなのよね…」


 何がしたいのかわかれば避けようもあるし、または手助けも出来るとは思う。

 なのに彼女は意図が読めない。

 年齢のせい?

 でも私の知る限り、精神年齢としては日本よりも今のこの世界の方が高いと感じる。勉学においては全然なのだろうけど。

 それは貴族社会というものがあるせいなのかもしれない。

 幼少期から自由に、とはいかないからこそ大人びてるように感じるのだろう。

 蓋を開けてみれば幼稚なのだけど。

 特に小蝿が。


「本来ならまだ自由に遊んで欲しいものがあればおねだりして、とか…そんな感じの年齢よね」


 ベッドの上に横になり高すぎる天井を見つめる。


 リアラ・カースン。

 ハイネ・アドルネア。

 マキアム・ラルド・シルフィード。

 ラドル先生。


 知らない名前の羅列。


 聖女、そして魔女。

 対の存在だと言われるけど、役割は何も対になっていない。


「どれもこれも、最初の印象が覆ってくのは勘弁して欲しい…」


 溜め息混じりに言葉にしては寝返りを打って身体を丸めた。

 ここにカーリカがいれば行儀が悪いと言われるのだろうか。

 以前一度丸まって寝ていたら驚かれた。


 ルカとしての私。流花としての私。どちらも私だ。


「…あれ?これって、前世の記憶を思い出したとかなの?思い出した、って感じじゃないよね?でも私の記憶も断片的にはあるし、…そう考えると憑依とか入れ替わったとかでもないし…」


 どういうことなの?覚醒?え?わからない…。


 脳内はすっかりお嬢様なのを忘れて自問自答を繰り返す。

 こんな姿カーリカに見られたら発狂されそうだ。

 居ないんだから別に構わないけど。


「お嬢様、先程から何をぶつぶつとおっしゃってるのですか?」

「へ?」

「?」

「!!!!カ…カーリカ!」

「ええ、カーリカです」

「え?え?!いつ入ってきたの?!」

「先程ノックをいたしましたが…お嬢様、少し落ち着いてください」


 私の背中をゆっくりと摩ってくれる。


「お食事の準備ができましたので、お呼びに」

「もうそんな時間なのね…」

「今日は帰られてからずっとぼんやりしてらしたようですが、どこか体調がお悪いのであればこのままお休みになられますか?」


 軽く首を左右に振りベッドから降りる。

 折角作ってくれたものを無駄には出来ない。


「いいえ、食べるわ。着替えてから行くから食事の支度をお願い」

「承知しました」


 そう言ってカーリカは静かに去っていった。

 盛大な溜息が口をついて出る。

 危なかったー……。


 あの日のことを思い出す。

 この姿に驚いて取り乱した日。

 知ってるのに知らないことだらけで戸惑った日。

 私という存在の理由を知った日。


「私は、もう少し幼くても良かったんじゃないかな…」


 大人び過ぎたルカ。

 目に入った鏡に映る自身を見て、少しだけ苦笑いとなった。

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