28:今日も平穏はないようです。

「マリアーネル様、今日はお昼をご一緒させてください」


 登校してすぐそう声をかけてきたのはリアラだ。

 あの日以来彼女とお昼は共にしたくないと感じていた私からすると正直お断りしたい。

 彼女の後ろにはマキアムもいる。

 なぜかなんてのはなんとなくわかるが、リアラといる理由はわからない。


「今日は予定があるのでまた誘ってくださる?」


 柔らかく言ったつもりなのになぜかリアラは傷ついたような戸惑ったような顔をした。

 どうしよう。この世界に来てから…というか、この子に出会ってからめんどくさいが口癖になった気がする。そんなこと言えばカーリカにはしたないって怒られるに決まっている。昨日思いきり言っちゃったけど。


「あの、お昼ってなんの用事が…」

「それは貴女に教えないといけない理由は?」

「え…」

「マリアーネル様はあんた如きに構ってられないって言ってるの!気安く話しかけないでってことよわかりなさい!」


 そんなこと言ってないでしょ何を言い出すのこの小蝿達は。


「口を慎むべきでは?勝手に私の言葉のように言わないでいただける?」


 笑顔で圧をかけてやる。余計なことは言わないでほしい。

 私の笑顔を見て小蝿は焦ったようにそそくさと散っていった。最初から口に出さなければいいのに。


「あまりそうやって権力を振りかざすのは良くないと思いますよ、マリアーネル様」

「リアラ・カースン。君はバカなのか?」


 マキアムの突然の言葉にリアラは目を見張る。それは私も同じだった。


「え、は…なに…え、」


 リアラは頭に血が上ったように顔を赤くして口をはくはくとしていた。上手く言葉にならないようだ。


「もう一度言おう。君は、庇ってくれたことに気付けない程バカなのか」


 バカ、を強調するように言うマキアム。

 強調すべきはそこじゃないと思うけど。いいの?そこを強調して。


「シルフィード様、」


 止めようと口を開くと同時にリアラは踵を返して走り出した。

 何その盛大に傷つきました風な演出。


「…珍獣みたいな女だな」

「ふふ、」


 聞こえた小さな声に思わず笑ってしまった。そんな私に気付いたマキアムも表情を緩めていて、どこか笑顔にも見えた。


「遅刻しそうですね、教室に行きましょうか」


 マキアムは小さく頷くと校舎に向かって歩き出した。私もその背を見て歩き出す。

 アドルネアの存在がある今は隣を歩く訳にはいかない。

 距離を置きつつ時折こちらを向く彼に気付き他愛もない会話をする。

 そうしながら教室について別れると席に向かおうとするが、何故か周りから視線が刺さる。


「マリアーネル様、あの…」

「…?」


 滅多に話したことのない女生徒がおどおどしながら話しかけてきた。


「先程、婚約者がいるにもかかわらず他の男性と二人でいたと…」


 ああ。リアラのさっきのはこれが狙いか。あれだけの短い時間で考えたにしては随分。


「校舎内に沢山の方がいるのに二人になるというのは難しいのではなくて?」

「あ…えっと、そういうことではなくて…」

「隣を歩いていたわけでもないですし、なにもお咎めを受けるようなことはしてないと思いますけど。それとも近くを歩くだけでそういう仲と捉えるのかしら」


 くだらない。何が言いたいの。真相を聞けとでも言われたのか話しかけてきた彼女は多少なり位はあれどすれど私より上なわけではない。

 それでいてこの質問をしてきているということは何かあるのだろうと思ったが、彼女の視線の先を追って気が付いた。


 ああ…、なるほど。


 だったら構う気はない。何故か知らないが彼女は私に何かを言わせたいようなので放っておく。

 その方が無難だからだ。何より興味もない。彼女にも、このクラスにも。


 授業は面白いけど…ね。


 無視を決めた私はさっさと席に着き授業の開始を待った。

 そんな私をリアラはなんだか悔しいのか、恨めしそうに歯噛みしながら睨んでいた。

 本当に何がしたいのかわからない子だ。

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