27:やっぱりカーリカね。

「めんどくさ…っ!」


 ベッドへと思い切り突っ伏すように身を投げ出す。

 あの後結局彼と彼のご両親とで食事をする羽目になり、終始ただ笑顔で誤魔化しボロを出さぬようになんとかやり過ごして帰ってきた。

 正直今の私に令嬢としてのスキルなんて求めないでほしい。いや、令嬢としてのスキルはある。身体に染み付いている作法は簡単には崩れない。その分完璧な令嬢像を植え付けられ続け美味しいはずの料理も全くと言って美味しくなかった。

 まぁ、この世界の料理は個人的には薄味だからもう少しだけ塩味が欲しいところではあるけど。私が関西人なら喜んでたべただろうか。否。関西だとしても味濃いものはあったな…。失礼なことを言った。


「はしたないですよ」

「カーリカ!」


 声に勢いよく身体を起こすとカーリカが困ったように笑ってこちらを見ていた。いつ入ってきたなどどうでもよく思わずカーリカに抱きつこうとしたが、すぐにはっとして踏みとどまった。咳払いを一つして何事もなかったかのように振る舞うがカーリカは明らかに驚きを見せていた。自分でも驚いてはいる。流花でいた時でさえ誰かに抱きつくなどはしなかった。ルカもそう。…ひょっとして別人格がいる?なんてことは思わないけど思いそうになる程度にはあり得ない行動をとった自覚はある。更に言えばそれは誰にも見せたことなどなかった一面だろう。その証拠にカーリカの反応はいまだにない。


「カーリカ、お茶を頼める?」

「かしこまりました」


 その言葉にカーリカも漸くと何も見なかったとばかりに動き出した。ティーセットをテーブルに置くと椅子を少しだけ引いて促される。座るのを合図のように心地よい音を立てながらティーポットからティーカップへと紅茶が注がれる。立ち昇る優しい香りに力が抜けていくのを感じ、だらしないけど深めに背もたれへと背を預けた。

 なんだかんだで緊張していたのかもしれない。そもそもこの世界の女性は大人とされるのが早すぎる。もう少し甘えていい期間を設けてもいいと思う。そう。もっと遊んでもいいと思うし自由にしてもいいと思う!はやすぎる!どちらとしても成人な私がいえることじゃないけど。


「窮屈とまではいかないけど求めすぎなのよね…」

「お嬢様?」

「え?」

「どうかされましたか?ぼんやりして」

「ああ…いえ。なんでもないわ。大丈夫」


 この世界を知ったばかりの日のテンションは流石に落ち着いてはいるけど、気を緩めるとどうしても好奇心が湧いて出てくる。この私のことを知る度に、思い出す度に、もう一歩と手を伸ばしてしまう。結果全てがいいことではないのだろうけれど、それでもすごいと感じることはある。その先への不安ももちろん。

「私」としての役割はこの世界での戦争を意味することも、平和を意味することも、正直重たい。それを知られることで変わることも。めんどうだな…と片付けられたらいいのにそうはいかない。この世界のことは知らないことだらけだ。婚約者についても、聖女についても、特にどうなどない。あまり近づきたくはないけども。大袈裟なことにはならないといい。ただそれだけ。


「カーリカ、お風呂の準備お願いできる?」

「もう出来ておりますよ」

「流石ね。お風呂入ったら今日はもう休むわ」

「承知しました」


 そう言って退がっていくカーリカは本当によく出来た侍女だ。癒しでもある。先程までの疲れが少し緩和したもののまだ疲れは抜け切らない。さっさとお風呂に入って寝てしまおう。今日は本当に疲れた…。

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