25:興味と想いの対象(Haine side)

 父から今代は魔女が存在すると聞いた。世界を滅ぼすのも救うのも魔女次第だというほどに魔女の力は大きく、アドルネア家は代々魔女との繋がりを求めてきた。そのせいか父は魔女との婚約を強く願っていた。

 くだらない。最初はそう思っていた。俺には想いを寄せる相手もいた。幼い頃に期待に押しつぶされそうになっていた俺に対し、遠慮なくつまらない男だと吐き捨てた女。

 それがまた悔しくて、何も知らないくせにと思ったが彼女がマリアーネル家の長女だと知った時、似たような立場にありながらああも真っ直ぐに立つ強さに惹かれた。何故あんなに周囲の期待が寄せられる中それをものともせずにいられるのか。小さな彼女に向けられるのは期待だけではなく、その地に生まれたがためにある周囲の領地からの悪意や責苦、様々な汚い感情。何より利用しようとする者もいれば誘拐を企てる者さえいる。それでも彼女は堂々としていた。

 その姿が俺は忘れられなかった。

 そんな時に今代の魔女が彼女ではないかと囁かれていた。想いを寄せる相手がまさか魔女だとは思ってもいなかったが、これ幸いとばかりに俺は父に打診した。

 繋がりが欲しくて仕方のない父は大いに喜び早急に婚約を申し込む手紙をマリアーネル家へと出したが、婚約は彼女の父によって断られた。理由はなく、ただ許可し得ないとだけの返事。そんなもので納得いくわけもなく本人と話をしたいと書き添えて再度送る。しかしそれはまたしても断られた。会わせることはできないとだけ綴られたその手紙に、俺は憤りを感じる。せめて理由だけでも知りたかったがそれさえ叶わない。

 学内でも彼女は俺の存在など知らないかのように素通りしていく。それがまた悔しかった。何度申し入れても断られる。どうしたらいいかと悩み続け気付けば三年が過ぎていた。

 そんな時だ。リアラ・カースンという女性が編入してきたのは。

 最初はなんだか頭の悪い令嬢だと思っていたが、頭が悪いフリをしていることに気付く。そして彼女は人に合わせて態度を変える。それが男受けするらしく自分だけ特別なんだと言われてるような感じでたまらないのだそうだ。ユックも陥落された一人で、足繁く彼女の元へと通っていた。側付きの筈なのに容易く離れる彼に俺はため息ばかりが増えた。

 しかしそんなユックのおかげで彼女がマリアーネルに対して悪い噂を周りの男子生徒に吹聴していることを知った。その中には彼女が魔女であることも含まれており、周りは魔女という存在など信じていない癖に悪女だなんだと彼女を罵り喚いていた。


「マリアーネル様は自分に才能があるからって人のことを下に見てるんです。努力してる人のことを馬鹿にするなんて本当に許せない!」


 そう豪語するこの女は彼女のなにを知ってるというのだろうか。彼女ほど努力している人を俺は知らない。彼女の自信は日頃の努力からきているものだ。決して才能があるから驕っているとかではない。それなのにこの女はきーきーきーきーと騒ぎ立てている。人の悪口ばかり言うこんな女の何がいいのかさっぱりだ。

 しかし俺はこれは利用できる気がした。この女の存在も、周りの男子生徒の存在も。


 俺は辺境伯宛に一通の手紙を出す。それは俺が提供できうる限りのメリットを書き綴ったもの。同時に、彼女を利用しようとするもの、蹴落とそうとするものを全て排除することを約束する手紙を。

 結果、申し出は受け入れられた。俺は彼女の隣に立つことを許された。それは本人の意思ではないことはわかっていたが、それでも俺は嬉しくて仕方なかった。


 あの時足りなかったのはマリアーネル家に俺が何をもたらせるか。確かな理由と約束。まだ大したこともできない子供であることは承知。しかしあの家にとってそれは関係ない。爵位があろうがなんだろうが利をもたらさない人間に用などないのだ。


 顔合わせの日、案の定彼女は至極興味がなさそうだった。俺のことを覚えていない上に婚約さえもどうでも良さそうで、少し悲しくはありつつも面白くもあった。猫を被り優等生ぶった俺に心の底から面倒そうなのを隠しもしない姿勢。媚びを売るでもない、自慢するわけでもない。人に対して真っさらな彼女はとても心地がいい。真っ直ぐで賢く綺麗なルカ・マリアーネル。

 誰にも譲る気はない。この先も。それなのに彼女は気付けば誰かに絡まれている。知らずに人を惹きつける体質というのは実に厄介で、くだらない魔法を使ってしまうほどには頭を抱えたくなる。出口を塞ぐとか、ダサいにも程がある。もっとでかい男にならなくてはならない。彼女のこれからを護るためにも。

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