24:隠された天才

 授業が一通り終わり帰り支度をしているとふと腕を掴まれた。

 覚えのある感覚に振り向けばやはりそこにはマキアムがいた。腕を掴まれるまで全く気配に気付けなかった…。

 というか腕を掴むなって言ってるでしょ。


「なんでしょう…」


 問いかけながらもそっと手を外して腕を隠すように後ろへ退げる。そんな私を見てもマキアムは何も言わずただじっと見てくる。そこで気付く。


「…なるほど。次は何をお届けに?」


 マキアムは驚きを隠せないような顔で私を見た。整っている顔が台無しだ。そこまで驚くことではないと思うのだけど。


「先程、私の腕を掴んだのは貴方のお兄様と私の魔力を繋ぐためですね?」


 人の魔力同士を繋ぐなんて、何魔法に該当するのだろう。風に乗せて魔力を繋いでいるのか。しかしそれだと阻害が大きい。そう考えるならば地…糸を張るように繋ぐ?でもそれは距離的に難しそう。錬金術なのかしら。


「あんたは、恐ろしく賢いんだな。兄様が知りたがるのも納得だ」


 どういうこと。私は平凡な会社員‥じゃないわね、今は。確かにルカはとても賢い。流花の記憶が混ざっても全くと言っていいほどその知力は下がらなかった。前世の記憶をこの世に活かす。なんて話を聞いたことはあるけれど、活かす以前にルカの地頭が良すぎて流花の知力なんてもはや塵のようなものだ。活かせるものなんて何もない。まあそんなことはどうでもいい。この男が何をしにきたのか。


「それで、何をお届けに?いえ、伝えたいことかしら」

「直接伝えたくなったそうだ。我が家に来て欲しい」

「それは無理な相談だな、シルフィード」

「アドルネア様」


 教室の入り口の方から声がしたと思えばそこにはアドルネアがいた。表情は柔らかいのにとても低めな声。何か怒っているかのようだ。


「ルカ、今日はこの後うちに来る予定だったと思うが?」


 いやそんな予定聞いていない。何を言い出すの。あと呼び捨てにしないで。


「二人は…」

「婚約者だ」


 その言葉と同時に何故かマキアムが表情を歪めこめかみを抑えた。強い頭痛に襲われたようだ。…ああ、そういうこと。


「シルフィード様、今、お兄様と繋がってらっしゃるんですね」


 どうやら何かの道具を通して意識を繋いでいるようね。指輪はしていない。とすると何で?

 好奇心から思わずマキアムをまじまじと見る。しかしアドルネアが間に立ったことで私はマキアムを観察することは叶わなくなった。


「アドルネア様、お約束された方を間違えてらっしゃるのでは?」


 態とらしく言うとどこか面白そうに口角を上げる彼に眉を顰める。何。


「君以外を呼ぶ理由は?」

「知りませんけど」


 微笑み合う私たちにマキアムは一瞬怪訝な表情を浮かべると私とアドルネアを見て踵を返した。諦めたのか、それとも何か指示を受けたのか。おそらく後者な気がする。


「邪魔者は去ったし行こうか」

「どちらへ?」

「君はつい先程のことを忘れてしまうほど物覚えが悪かったのか?」

「そのようです。なので今日は帰りますね」


 なんて、言ったのに。何故今私はアドルネア家へと向かう馬車に乗せられてるの…。

 悔しいことに私はアドルネアに言い負けた。言い負けたというのはやや語弊があるが、似たようなものだ。

 帰ると伝えて歩き出そうとした瞬間に前を遮られた。そして同時に教室のドアが前も後ろも閉まり、彼が魔法を使ったのだとわかる。ご丁寧に簡単には開かないように陣を組んでいた。それを解くのは簡単ではあるけれど、幾重にも繰り返されたやり取りにうんざりした私は諦めてアドルネアの家に行くことを承諾したのだ。


 ほんっとうにめんど臭い。というか、まさか魔法で出口を塞いだ上に解くたびに魔法をかけるとか…なんの遊びなのよ。子供すぎてびっくりだわ。


「解かれると自動で再度ロックされるようにしてただけだ」


 口に出した覚えはないのに返ってきた言葉は少し予想外ではあった。なるほど。アドルネア家は魔法よりは剣技の方が得意とは聞いていたが案外そうでもないらしい。魔法もそれなりには使いこなすようだ。‥自動で閉まるって、そもそも破壊するを選択しなかった私の負けってこと。最悪。次回からは陣があるものは破壊すべきね。そんなことを考えていると漸くと馬車が停まる。アドルネア家に着いたようだった。

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