23:存在するかしないか

 辿り着いたのは良いが教室には誰も居なかった。

 屋外で授業だっただろうか。いや、私は授業が始まる直前までは教室にいたし、皆も居た。

 ということは途中で外に変わった?そういえばリアラが反対方向から来ていた。なるほど。彼女が向こうから来たのは外からだったからか。マキアムを迎えに来たのは合同だったとか?

 それならなぜ私に外で授業が行われていることを言わずに去っていった?


「つまり最初から教える気がなかった、ってことね…」


 やたらと私に声をかけてきた日はやはり何かを考えてのことだったのか。それとも、光だと明かしたからか。どちらでも良いけど益々面倒なタイプだと感じた。いずれは我が家で受け入れなくてはならない存在なのだろうけれど。今のままでは到底難しい。

 我が父は光魔法が使えるからと言って甘やかすような人ではない。どうしたものか、と溜息を吐いた。


「どうされたんですか?」


 後ろから声をかけられて振り返るとクラスで見たことがある女性がいた。名前はなんだったか…。蝿…じゃない。こそこそしていた方達の中には居なかったことだけは分かる。ここは敢えて名を呼ばずに躱そう。


「お邪魔でした?通りたかったわよね。ごめんなさい」


 そう言って端によけて道をあけたが彼女は通らなかった。まあ、邪魔なら反対側から入れば良いだけなのだし、ここで声をかけてきたということは通れなかったのではなく話があるからなのだろうというのは推測できる。


「マリアーネル様は、私程度のことなんて眼中になさすぎて目にも止まらない、記憶さえするに及ばないということでしょうか」


 何この子。いきなりのアクの強さに少し驚いてしまった。


「貴女は興味を持たれたいの?」


 その言葉に今度は彼女が驚いたようだ。そしてすぐにくすくすと笑う。不気味だ…。


「いいえ。貴女に興味を持たれるとカースンさんが絡んでくるのであまり興味は持たれたくないですね」

「リアラさん?」

「ええ。カースンさんは貴女が孤立するようにしてるようです。マリアーネル様が彼女を虐めている、小間使のようにしているという噂はご存知ですか?」


 孤立、ねえ。そもそも自分から誰かを求めてないのに孤立するもない。なので勝手にどうぞ、という感じではある。

 ただし変な噂などを流されていたらそれはまた別問題だ。そもそも彼女に私の小間使いが務まるわけがない。むしろ近くにいられては無駄な時間が増える。


「興味ない、という感じですわね」

「それで?」

「いいえ。ただお気を付けて、というだけです。彼女は人の気を引きたくて仕方ない方のようですから」


 なるほどね。人の気を引くために他者を落とすということがどれだけ愚であるか知らないということね。


「え……」


 言葉を返そうと顔を上げたが目の前には誰もいなくなっていた。慌てて廊下を見渡すが人がいた気配がない。魔法を使った痕跡もなく、その場は静まり返っていた。


「どういうこと…」

「マリアーネル、何してるんです。早く席につきなさい」

「!?」


 教師の声に弾けるように意識がそちらへと向く。目の前には生徒が席についており授業を受けていた。そこにはリアラもいる。そしてこちらを見て首を傾げていた。咄嗟に先程の女生徒を探そうと教室内を見渡したがその姿はどこにも見当たらなかった。


 どういうこと…。幻影?時空間魔法?


「席につきなさい」


 再度そう言われて大人しく席へと向かう。周りを見渡してみても誰の視線も向かない。先程のは誰かが見せた幻影で、さらに言えば恐らく女生徒も作られた姿だろう。そう考えれば納得もいく。しかし魔力を感じなかった。魔法ならば何かしらの痕跡がわかるはずなのに。何もない。なんとも後味の悪い魔法だ。引き込まれた。私が。誰が。

 私は過信していたのかもしれない。知らぬうちに。暫くは鍛錬に時間を費やそう。私はそう心に決めた。

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