22:学習能力はおありかしら

 今戻れば授業はまだ頭らへんだろう。とすれば聞きたかったことが聞けるはず。足早に戻ろうとするところ腕を掴まれた。誰…いやほんと誰。


「あの、何か…?」

「リアラをいじめてるって噂の令嬢はあんたか?」

「いじめてないので違いますわね」

「そうか」


 …。

 ……。


「あの、手を離していただいても?」

「ああ、すまない」


 …。

 ……。

 ………。


「離してという言葉が理解できないようなのですみません」


 言うや否や思い切り振り払う。

 その手を呆然と見ていた男は何度か瞬きをした。


 怖い。はっきり言って怖い。誰とか以前にそもそも天然は苦手すぎて怖い。なぜなら言動も行動も読めないからだ。


「ええと、それで…」

「ん?あ、ああ。いや、責めたりしたいわけではなく知りたかった」

「何をでしょう?だから腕を掴まないでいただけます?」


 なぜまた掴む。勘弁してくれと再度振り払い一歩退がる。


「マキアム様!」


 出たでかい声おん…リアラ。なぜ。というか、授業はどうしたの。学生の本分は学業でしょ?…マキアム?てことは、唯一と言われる錬金術師の兄がいる方ね。

 マキアム・ラルド・シルフィード。まあすごいのは兄であってこの人ではないから媚び諂う気もしないし誰ですか?はかわりないけど。それよりリアラはなぜいるの。


「先生が探してましたよ。すぐ教室から居なくなるって」

「聞いても無駄なものを聞く気はない」


 聞いても無駄…ねえ。マキアムって頭いいのかしら。成績発表で名前を聞いたことなんてないけど。というかもう行ってもいいかしら…。早く戻りたい。

 ん?あれ?この人たち私の後ろから来たわよね?教室とは反対では?…まあいいか。考えたら負けな気がする。とりあえず関わらないに限る。


「用がないようなので失礼しますわね」


 にこりと笑顔を浮かべそっとさらに一歩退がってから向きを変えて歩き出す。しかしすぐにまた腕を掴まれた。

 ええ……。なんなのこの人…。


「マキアム様?」

「なんでしょうか…?」


 リアラも私も不思議な顔になる。だから、なぜ腕を掴むの…。学習能力ないの???!機能捨てたの!?なら拾って!?ねえ!

 疲れる…。なんなのこの意味不明なやり取り。早く教室に帰りたい。


「マキアム様、教室に戻りましょう?また減点されちゃいますよ!」


 そう言いながらマキアムの腕を掴んで引っ張るリアラを見てなんだこの構図は…と頭を抱えてしまった。


「何をしている…て、猿の綱引きか…?」

「そんなわけないでしょう?」


 思わず圧をかけてしまったのは許して欲しい。実際私を掴むマキアムとマキアムを引っ張るリアラ。確かに猿の綱引きと言われるのも仕方がない。いや実際に猿が綱引きしてるところなんて見たことないけど。


「ラドル先生、この方達をなんとかしていただいても?」

「は?いや、どう言う状況…はいはい。お前意外な性格してるな…」


 私の圧に気が付いたようで彼は私の腕を掴むマキアムの手を掴み引き剥がすとその手をなぜかリアラと繋がせた。ああ、その手があったか。案の定リアラはマキアムの手をぎゅ、と握りそのまま引っ張った。


「ほら、マキアム様!行きましょう!」


 嬉々としてマキアムを引っ張って私が向かおうとしていた方向に歩き出したリアラの背を見つめる。マキアムも諦めたように引っ張られる。本当になんで後ろから来たのか。


「というか、あいつらクラス別々だよな?なんでカースン嬢が迎えに来てるんだ」

「え?別なんですか?」

「お前……。自分のクラスメイトぐらい覚えとけ」


 そういえばクラスでマキアムを見かけたことなんてなかった。てっきり授業に出ないから見ないだけなのかと思っていたがそもそもクラスが違ったらしい。ええ……。リアラはなんで迎えに来たの…。


「助かりました、ありがとうございます」

「いや、いいが。なんであんなのに絡まれてた」

「さあ?」


 あんなの。教師が口にしていい言葉ではないと思うがまあ聞かなかったことにしましょ。それより私も早く教室に戻らなくては。


「それでは私も戻りますので」

「ん?ああ。次は絡まれるなよ」


 ぜひそうしたい。

 今度こそ私は教室へと無事に戻り着いた。

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