20:無駄な時間とはさよならを

「アドルネア様、探しましたよ。いつの間にか居なくて焦りましたよ。私が困るんですから勝手な行動は慎んでください」


 しまったとばかりの表情をするアドルネアを横目に見る。なるほど。彼だけがカフェに向かったのかと思ったがどうやら違ったようね。カフェに行きたくなかったのならば最初からそう言えば良いと思うけれど、…見たところ違いそうねこれは。口ではなんとでも言える、というやつかしら。


「彼女と食事がされたいのなら私に構う必要はございませんので、好きになさってください。その程度で咎める私ではありませんし、そもそも興味のない方々と食事を求められることほど苦痛なことってありませんので」


 彼女と、を強調して言えばたちまち嬉々とした表情をするリアラと、最早無感情なのではと思えるほどに色の見えない笑顔のアドルネア。これほどまでに面白い二人…いえ、三人ね。を放っておくのはと思ったがこれ以上時間を無駄にしたくないのでさっさとお昼を食べ始めた。

 アドルネアはただただ私を見ている。そしてそれにお構いなく話しかけ続けるリアラ。


 …なんの拷問タイムなのこれ。賑やかなのは現世でも変わらなかったしいいけどこんな地獄絵図の中食事したことなんて一度もなかったわよ。そもそもほぼ雑用に近い私からしたらそんな悠長に食事、なんてのもなかったけど。でもそれは知識につながる雑用ばかりだったから苦ではなかった。なんでそれが必要なのか。何が必要なのかを知れる機会だ。逃すのは勿体なくさえ思う。


「アドルネア様、そろそろ休み時間も終わります。戻りましょう」


 そこではっとした。考えに耽っていたせいか半分も食べていない。時間内に食べ終えれたとしてもここから戻るには少し時間がかかる。惜しいが、残して戻るしかないのだろう、と思い仕方なしに蓋を手にしたが、その手を止められた。


「マリアーネル様残すんですか?貴族はお残し厳禁と聞いたことありますけど」


 貴族に限らず残すのは作り手に失礼なことぐらい承知してるわよ。誰のせいよ。というか触らないでくれない?その手さっきユックの手握ってたわよね。見てたわよ。汗をかいてるユックの手を握った手で私の服を触るってどういう神経してるのか今すぐ答えてくれる?じゃなくてそもそも人の手を掴んで止めるって何。あ…だめだ、イライラしてきた。本来の流花が爆発しそう。さっさと逃げてしまおう。


「それは承知の上よ。それでも授業に遅れてまで食事を優先するほうがマナー違反になるわ。貴女は約束の時間に遅刻してでも食事を選ぶの?それが陛下だとしても食事を選ぶということかしら。だとしたらとても勇敢ね。あと人にマナーを説くつもりならばまずはその手を離してくださる?きた…それは淑女としていかがかと思うわ?わかっていただけたと思いますから私は失礼するわね」


 弾丸のように言いたいことを言うだけ言ってさっさとその場を立ち上がりガセポを離れる。お弁当は弾丸トークの間にさっさとしまった。我ながら器用だ。


 呆然と見送った後でまたしても笑っているアドルネアになど気付かなかった。この時気付いていればリアラの更なる猛攻は防げたのかもしれないが、この時の私は知る由もない。当たり前だけど。

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