19:通り越したら可愛くないってご存知?

 歩くうちに見えてきた裏庭の先にガセポがあった。そこでひっそりと食事をする予定だったのだが、まさかこの男がついてくるなんて思わなかった。更に言えば彼女も。


「アドルネア様とこんなところで会えると思ってなかったので驚きました。凄い偶然ですね!どちらに行かれるんですか?」

「ああ…そうだな。カースン嬢はカフェにいったんじゃなかったか?」

「ユック様がアドルネア様を探すと言ってたので一緒に探してたんです…!」


 声でっか…。何をそんなに張り上げてるのかしら。というかそのユックはどこに置いてきたのよ。探してるなら一緒に居ないとおかしいことに気付かないのかしら。まあ巻き込まれたくなんてないからどうでもいいけど。彼女に付き纏われる人は大変そうね。そう思いながらアドルネアの方を見ると目が合った。


(私は一人美味しくご飯を食べたいから先行くわね)


 内心でそう告げると私は彼を置いて早々にガセポへと向かう。隣をすり抜けようとした時に手を伸ばそうとしていたようだがそれをひらりと躱した。お楽しみはお二人で勝手にどうぞ。


 満面の笑顔でしきりにアドルネアに話しかけるリアラは正直言って逞しいを通り越している。先程彼女を責め立てていたご令嬢方と同レベル過ぎて…まだ向こうのほうがマシかしら。本人に面と向かって言うのだから。


 ガセポ内のベンチが汚れてないことを確認するとそこへ座り持っていた小さな手提げタイプのカバンからランチボックスを取り出した。

 食堂もカフェも使えなさそうな気がして朝一でカーリカに用意を頼んだのだ。


「わあ!マリアーネル様のお弁当とても美味しそうですね!」


 いつの間にこっちにきたのこの子。ちゃんと繋いどきなさいよ…。思わず睨むようにアドルネアを見たが、彼はかなり疲弊し切ったような顔をしていた。余程しつこくされたのだろうというのが見て取れる。ご愁傷様。

 初日…と言っていいものかはわからないが、初日はいい子と思ったのにあっという間の転落劇のように印象はひっくり返っている。庶民だ平民だと馬鹿にするのは違うと思うから他のご令嬢とも仲良くなれる気もしないけど。


「マリアーネル様でもこういった質素な食事をとられるんですね」


 その言葉にアドルネアの顔が青ざめたのがわかった。大丈夫よ。そんな短気じゃないから。…多分。


「リアラさんにとって豪華なお弁当ってどんななのかしら」

「そうですね。お店のフルコースとか?あとはステーキとか…」


 …この子、馬鹿なの?そんなのお弁当に持ってくる人居ないでしょ。フルコースがお弁当にって重箱だとしても難しいわよ。この場に料理人でも呼ぶわけ。ステーキだってカットすればいけるけど冷めたお肉はどんなにいいお肉でも臭いがそれなりに出る。それを令嬢が振り撒いてたら周りはどう思うかぐらいわかるわよね?

 頭が痛い。態となの?態とバカなふりをしてるの?だとしたら可愛さ通り越してるから調整して欲しい。あざといのもバカなのも通り越せば可愛くない。


 そんなことを考えていると漸くとユックがこちらに向かってきてるのに気が付いた。遅過ぎる。アドルネアの側近だと言うならどこに行くかぐらい把握しててもおかしくはないというのに。…?リアラはなんでここにアドルネアがいるってわかったのかしら…。先回りしてるようにも感じられたけど。……ストーカー?だとしたらとんでもなく怖い。やばいとかではなく、怖い。やはりあまり近寄るべきではなさそうね…。というか私のお昼休みを返してくれないかしらね…。何分無駄にしたのやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る