18:お昼休みぐらいほっといてくださらない?

 お昼休みになって私は食堂ではなく校舎を出て裏庭へと向かう。裏庭にガセポがあると耳にしたのだ。

 嬉々として歩いていると見覚えのある姿が向かいから来る。アドルネアだ。


「ルカ」


 は?今この男私のこと呼び捨てにした?え?したわよね?婚約者だからって許してもないのに呼び捨てはどうかと思うのだけど。それでも私は顔には出さずに笑顔で応える。


「アドルネア様、ごきげんよう」

「ふ、…」


 何を笑ってるのかしら。出会い頭に笑うって超絶失礼では?はっ倒すわよ。


「話しかけるなオーラが凄いな君は」

「わかっているなら話しかけないでいただけます?」

「はは、本当に君は私に興味がないね」


 …あれ?昨日うちに来た時は僕と言っていたわよね?ああ。外面というやつか。確かにこの国では16で成人。ともなれば成人間際で僕、は侮られるのでしょう。とはいえ、ある距離を超えた間柄になればそれも失礼に当たる。…つまり、そういうこと。ここではその距離は超えないというのはちゃんと決めてるのね。少しだけ見直した。


「で、どこに行く予定だったんだ?」

「…それ、知る必要があります?」


 またしても笑っている。何故。ツボでも浅いのかしら。そう言えば今日は取り巻きが居ないのね。


「ユックならカースン嬢のところだ」

「ああ、なるほど。アドルネア様は行かなくてよろしいの?」

「私は君と昼食をとりたくてね」

「お断りです」


 即座にお断りを告げる。そんな私に彼は全く引くこともなく手を差し伸べてきた。つまり、エスコートする、ということだろうか。ここで?校舎内で?遠慮したい。はっきり言って迷惑極まりない。

 中々手を出さない私に焦れたのか勝手に手を握られてはそのまま歩き始める。

 嘘でしょ…もはやこれは拉致というものだ。勘弁してほしい。というかお昼ぐらいほっといてほしい。本気で。


「…はぁ」

「深いため息だな」

「あら、聞こえました?」

「聞こえるようにしたように見えたが?」

「わかってるなら手を離していただきたいのですけど」

「それは無理な相談だな」


 なんなの。本当に。昨日は私を見るなり顔顰めてたじゃない。それなのに今日は迎えに来るって。なんとなく、彼の意図は分かっている。


「別に、誤解などしてないのですけど」

「気付いていたか」


 当たり前だ。あのあと尋ねてきたということはつまりはそういうことでしかない。この国では婚約者がいるのに別の女性と仲睦まじくするのはよく思われない。まあそれはこの世界には限らないことだけど。


「彼女を好きなのだと思われたらたまったものではない。昨日は君が彼女と行動していたと聞いていたからあの場に向かっただけだ」

「それにしては険しい顔をされてましたけど」

「関わってほしくなかったからね。彼女はやたらと媚を売るのが上手い」


 ああ、だからユックという人があの態度だったのか。私が彼女、リアラを虐めている、というのを鵜呑みにしたのだろう。くだらない。


「君は彼女に正論を言っては度々泣かせていたからな。それをいじめだと取る人が少なからずいたのを利用するような女だ。近寄るべきじゃない」


 なるほど。強い、というのはそういうことか。泣いたのは演技だろう。人を悪者にしたかったのね。そういうのはいずれ自分に返ってくる。それを承知の上で彼女はそうしているのだろうか。人の考えることなどわからないし興味はないけれど、それが理由でこの男と行動を共にしなければならないのであれば些か面倒だとは思う。

 とはいえこの男が何考えてるかは理解したので今だけは素直に従うことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る