16:疲れたら休みましょう

 それにしても両親まで洗剤って。驚き過ぎたのと、そのワードがあまりにも似合わない顔だと思ってしまった。そんなことを考えていたせいか両親の慌てふためいたような、戸惑いを隠せないような表情に気付くのが遅れた。


「なんでしょう?」

「あ、いや、お前、それを飲んでなんともないのか?」

「ええ、なんともありませんが」


 なんなのかと首を傾げた。そもそもこの世界に炭酸水があることが嬉しくて仕方ないぐらいだ。夏場など暑くなると炭酸でスカッとしたい!という気分の時などはとてもいい。ソーダなんかでも良いけどああいうのは逆に喉が渇いたりするのよね…。


「そうか…なんともないなら良い」


 そこからは奇妙な沈黙と共に食事が始まった。今日のメインディッシュは魚をカラッと揚げたもののようでカリカリふわふわでとても美味しかった。衣などの知識があるのだというのや、揚げ物への概念などもちょっと驚いた。ただまあ、美味しいは美味しいんだけど…量、多くない…?驚くほど次から次へと運ばれてくる料理に私は段々と胃がはち切れそうな気さえしてきた。


 え、待って。あと何品続くの…!?


 食べ過ぎで吐き気さえ覚え始めた頃ふと母や父が空いたお皿を下げさせずに自身の前に置いたままにしていることに気が付いた。…ん?お皿を下げさせずに…は!

 私は今更気が付いた。習慣で食事を終えたら少しだけ横に避ける癖があったのだが、それはつまり…食べ終えましたよと伝えることは次を、としてたってこと!?え?いや、でも普通コースなら終わりがあるでしょ!?食事のマナーとかそういう…だって余ったら料理が可哀想だし、そんな何品も作るとか思わないし…嘘でしょ?まさかここではそれがもう要りませんの合図?!知らないですけど!?わんこそば形式なの??!

 料理を完食した私は敢えて皿を避けずに目の前に置いたままにした。すると漸くそこでお皿が下げられることはなく、配膳の手が止まったのだ。…なるほど。ちらりと両親の方に目をやると二人は言葉をなくしたように私を見ていた。言いたいことはなんとなくわかる。


「今日は随分と食べたな…」

「え、ええ、そんなにお腹が空いていたの…?」


 知らなかっただけだとは言えずにただ笑顔で誤魔化した。私は立ち上がるとカーリカに部屋に戻ることを告げてリビングを出る。彼女はついてくることはなく食器を片付けているようだった。


「はぁ…。ほんと、半端な感じね」


 こういう時は普通元々の知識で過ごせるのではとか思った私が甘かった。魔法とかは覚えてるようだったし飲み込みの早さなども一級品に思えたのに、こういうとこでは流花になるのではダメダメでしかない。よりため息が深くなるのを飲み込みながら部屋のドアを開け、真っ先にベッドに向かうとそのまま飛び込むように横になった。


 はー……一日が長かった。長いというより濃い。濃すぎて疲れ切ってしまった。お風呂にと思うが少し休みたい。それにあれだけ食べてすぐお風呂は消化にも悪い。今は一旦のんびりとさせてもらおう。


「魔女と聖女…ね」


 ふと先ほど読んだ本の内容を思い出した。聖女と魔女。この世界を守護する神より力をいただく巫女。私は魔女なのだろうか。全の力が何かはわからないし、使えるのかもわからない。けれど、私の使える魔法はどうやら一つじゃない。色んな属性が使えるような、そんな気がしていた。


「魔女とか、めんどくさ……」


 思わずそんな言葉が出るほどに私は疲れていたようだ。その言葉は私の言葉なのか、ルカのものなのか怪しいものだったけれど…。

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