15:視点の問題のようでした。
リビングダイニングでは長テーブルの上はまだ何もなくグラスとお皿が並んでいるだけだった。
「お嬢様、飲み物は何がよろしいですか?」
「そうね…。炭酸水はあるかしら」
「炭酸水…ですか?」
え、まさかないの?嘘。炭酸自体がないってこと?嘘よね?内心大慌て状態の私を他所に先に席に着いていたらしい父と母も驚いたように私を見ていた。どうしてそんなに驚いてるのか私が知りたいぐらいですが?
カーリカは申し訳なさそうに眉を下げ一礼した。
「申し訳ありません、飲み物用のものは用意しておらず…」
ん?飲み物用は用意してない?ということは炭酸自体はある?え?炭酸水に飲み物用と飲み物用ではないものなんてあった?どうしてこういう時ばかりルカが働かないの。
「ならお水でいいわ」
こうなったらもう無難なもので行こう。緑茶も麦茶もウーロン茶も怪しそうだもの。紅茶はあるだろうけどグラスということは恐らく冷たい飲み物だろうし、とはいえ恐らくここでは冷たい紅茶は恐らくない。そう考えたら最早選択肢などないに等しい。
カーリカが一度退がるのを見届けながら席へと着いた。
父と母はおかしそうに私の顔をチラチラと見ている。
「どうされました?」
「いや、まさか洗剤を飲みたがるとは思わなくてな」
洗剤…?炭酸水が?セスキソーダ的なのはあると思うけど炭酸水が洗剤って何。最早混乱どころではなかった。すぐにカーリカが水の入った瓶を持って戻り、グラスへと注いでくれたためそれを一口だけ喉へと流す。
「炭酸水は美容にも健康にもいいのよ、お父様。私のいう炭酸水は水に炭酸ガス…二酸化炭素を入れたものだけど」
「それは洗剤ではないのか」
「なにをいってらっしゃるの?」
埒が開かないとカーリカを呼んだ。
「それ、ここに持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
一礼をしてキッチンの方へと向かうカーリカの背を見届けつつ、運ばれることのない料理に気付いてメイドに片手を控えめにあげた。
「気にせず料理を運んでちょうだい」
すぐに周りのメイドは慌ただしく動き始め料理を運びだす。待たせてしまって申し訳ない。
前菜が届いた頃にカーリカが戻り、先程洗剤と言ったものを差し出した。それを受け取り一度匂いを嗅ぐ。特に何かの匂いもなかった。そして見た目的にもしゅわしゅわと小さく音を立てているそれはどう見ても炭酸水でしかなかった。
確かに炭酸水で擦ると炭酸ガスが汚れを浮かすので落ちやすくなるものもある。だからと言って洗剤の役割は果たしきれないのではと思う。
私は本当にほんの少しだけそれを飲んでみた。カーリカが慌てるが手で制する。うん。ただの炭酸水だこれは。
「これ、ただの炭酸水ですわよね?なぜ掃除に?」
「パチパチしたものが油汚れをよく落としてくださるので、たまに使っております」
「そう。特別にこれに何かを混ぜてるわけではないのね?」
「はい」
ならば問題なく飲める。いや、飲んだ後で言うのもなんだけど。炭酸水は飲み過ぎると良くないけれど多少ならばお通じにも効果的だし肌も整えてくれる優れものだ。炭酸水で顔を洗うと引き締まりもする。その上ちょっとした掃除なんかにも使えてまるで万能水だ。
あまり期待はしていなかったがこの世界にあると知れたのはとても大きい。
「カーリカ、明日から夕食の飲み物はこれにしてくれる?」
「え!」
「大丈夫よ。飲み過ぎなければ身体に害はないから。それどころかとても身体にいいの」
「そうなんですか…?」
「ええ」
そういうとわかりました、と未だ信じられなそうな声音で頷いていた。
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