5-2:私、試験を受けます。
「では次、リアラ・カースン。前へ」
「…はい」
隣に座っていたリアラが自信なさそうに席を立つ。
教壇の前に立ち皆へと向き直るとリアラはゆっくりと深呼吸をした後、両の手を組み詠唱を始めた。しかし詠唱を終えても何かが起こる気配はなく、静かな沈黙が場を支配する。
「止め。リアラ・カースンは放課後残るように」
先生のその言葉に周りはまた馬鹿にするようにリアラの悪口を言い始めた。
馬鹿馬鹿しい。どうせあんた達は家で家庭教師でもつけて貰ってたんじゃないの?あの子が平民って呼ばれて馬鹿にされてるってことはここで初めて魔法を学ぶのかもしれないのに。それを馬鹿にして笑うなんて、本当に幼稚だ。塾に行ってある程度問題を熟知している人と、塾に行かずに初めてその問題に向かう人とじゃ出来が違うなんて良くある話じゃない。まあ、生粋の天才は初めてでも簡単にこなすらしいけど、そんなのは一握りだ。
「ルカ・マリアーネル、前へ」
と、私の番か。って、最後じゃない?!嘘…トリなんて最悪。出来なかったら大恥じゃない。私が過去に習ってたのかなんて知らないし、そもそも魔法のあった世界でなんて生きたこともない。出来る自信なんて皆無だ。前に出たくない。でもやらない訳にはいかない。それに皆魔法は違ってた。得意な属性がきっとあるのだろう。でも私は何が得意かなんて知らない。どうする。どうしたらこのピンチを乗り切れる。リアラへの言葉は正直私にも返ってくるのだと思った。
「ルカ・マリアーネル!」
「あ、はい」
2度目を呼ばれて慌てて立ち上がる。はー。どうしたものか。未だに解決策は浮かばない。他の人達のを聞いていてなんとなくどの詠唱がどの魔法なのかは分かったけれど、それを覚えてるかと言われれば覚えてもいるけれど。出来るかと言われれば…さあ?って感じ。
なんて考えながら歩いていたらあっという間に教壇の前に着いた。後ろの席からなのに随分と近いとさえ思ってしまった。
「では始め」
合図と共に私はせめて形だけでもと思い片手を胸元へ、そしてもう片方を掌を上向きにし前へと差し出す。そして火だと万が一の火事が怖いため、氷を成形するイメージで掌へと神経を研ぎ澄ませる。出来る訳ないと思いつつ、案外想像力でなんとかなったりするんじゃないの?と思ったのだ。
それはどうやら正解だったようで、指先がどんどんと冷えていくのを感じた。
「待て!おい!ルカ・マリアーネル!ストップだ!やめろと言っている!」
慌てたような先生の声と手を掴まれ後ろへと引っ張られる感覚にはっとした私は目の前で起きている事態に息を呑んだ。教室全体が凍っていたのだ。
「初級魔法をと言ったのに何故君はこんな大きな魔法を使った…。それも無詠唱で」
「あー…コントロールを誤りました」
「は?」
「私の予想では氷の塊を一つ作る程度のつもりだったんです。それも小さいの。そしたらコントロールを間違えたようです。すみません」
素直に謝る私を見て額を抑える先生。はー…とため息を深く吐いていた。
「君も放課後残るように…」
「わかりましたわ」
にこりと笑って席へと向かう。本当は誤ったのはコントロールでも想像でもない。周りの生徒への感情だ。氷の成形を想像してる間にもリアラへの悪口が後を立たずイライラしてしまったのだ。
でもまあいい。どうやら魔法はちゃんと使えると言うのがわかった。帰ったら魔法の本でも読んでみればこの先もどうにかなるでしょ。…多分。
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