5:私、学校に行きます。

 30分ほどして馬車がゆっくりと速度を落とし停まった。恐らく学校に着いたのだろう。


「お嬢様、到着いたしました」

「ありがとう」


 声掛けと共にドアが開かれる。差し出された手を取り馬車を降りた。仕事といえどなんて紳士なのか。これが現代日本にいたら大モテね。いや、案外そうでもない?出来る男と紳士な男はモテるっていうけど。でも私はわんこ系とかちょっと残念な可愛い系が好き。


「いってらっしゃいませ」

「ええ、帰りもよろしくね」


 それだけ告げていざ門へ、と足を向けたところで立ち止まる。


 うっそぉ〜…なにこれ…城?城なの?学校とか言いながら私は城にでも連れてこられたの?

 目の前に広がるのはあまりにも大き過ぎる建物で、門の先には噴水があり、女神のような石像まである。なにこれ…。税金の無駄遣い過ぎるでしょ、どう見ても。この世界そんなに人口多いの?学校ってここしかないんじゃない?

 とか脳内でぶつぶつと呟いてると後ろから声が掛けられた。


「おはようございます、マリアーネル様」

「………」


 どうしよう。誰か分からない。

 え、覚えてるでしょよゆーとか思った数分前の私を殴りたい。


「マリアーネル様?」

「え?あ、ああ、ご機嫌よう」


 何とか名前を呼ばないようにして適当な笑顔を貼り付けて小首をかしげるような仕草でかわした。これは礼儀としてはきっとダメだろうと思ったが今は仕方ない。何とか乗り切る。


「クラスまでご一緒してもいいですか?」

「ええ、構わないわ」


 よっしゃあああ!これで教室まで迷子ってことは避けられる!なにこの子ちょーいいこ!!と思わず内心でガッツポーズしてしまった。

 しかしそれがどうも良くなかったらしい。周りから小声でひそやかに話す声が聞こえる。


「なにあの子…。どうしてマリアーネル様と?」

「平民上がりのくせしてよく話しかけられるわね」

「何で彼女がここにいるのかしら、さっさと退学でもすればいいのに」


 コソコソとした話し声に隣を歩く彼女は少し俯いた様子でどこか泣きそうにも見えた。名前を知らない私はどうしたらいいだろうと悩み、話すネタもなくてただ並んで歩く。いやあなたも何か話しなさいよ!どういうこと!?話しかけてきたならなんかあるのかと思うじゃない!ないの!?


「あの…」

「あ、えっと、ごめんなさい!迷惑でしたよねやっぱ…!平民なんかの私が話しかけるなんて…」


 なんでそうなる!?別に誰が誰に話しかけたってよくない?だめなの!?いやだめか。この世界ではきっと身分というものが大きく関わるのだろう。

 となると、平民というこの子が私に話しかけた時点できっとだめなのだ。でもここは学校。門を潜ればそれは皆もう平等な筈なのだ。


「構わないわ。もう門を通り過ぎたんだもの、私もあなたも身分は学生。同じはなくて?」


 何で上から目線なんだルカー!!ごめんなさいごめんなさいと内心平謝りをする。しかしあまり下手に出るのも良くなさそうだったし、仕方ない。そうよ、仕方ない。


「ふふ、そう言っていただけるととても嬉しいです。勇気を出してみて良かった」


 なんだろう、この違和感。彼女の笑顔がなんとなく引っかかった。しかしそんな違和感もほんの一瞬で、今は無事クラスに辿り着くことが重要である。


「そんなに私は話しかけづらいのかしら」

「いいえ。でも私なんかが話しかけていいとは思えなくて。名前だって知られていないようですし」


 しまった。名前を知らないってことがバレた。さあどうする。素直に言う?そんな失礼なことは出来ない。必死に何かを考える。この子の名前が出てこない時点できっと私は彼女と仲良くはない筈だ。身分の差もあるようだし。


「それなら今自己紹介をすれば良いわ」

「え?」

「何?別にこのまま知らないままで居てほしいっていうなら構わないけど」

「リアラ。リアラ・カースンです」

「そう、リアラさんね。クラスに行くんでしょ?遅刻するわよ」


 周りをちらりと見る。するとそそくさと皆は散り散りになっていき、隣にいた彼女、リアラは足を止めて私を見ていた。何。遠回しに名前を教えろって言ったのがバレた?怒ったの?


「なに?遅刻するけどいいのかしら」

「あ、だめ!だめです!行きましょう、マリアーネル様!」


 リアラは再び歩き出すと急ぎ足気味でクラスへと向かっていった。私も置いて行かれるわけにはいかなくてお嬢様にはあるまじきことであるのは承知で足早にクラスへと向かった。

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