4:私、学校に行きます。
30分ほどして馬車がゆっくりと速度を落とし停まった。恐らく学校に着いたのだろう。
「お嬢様、到着いたしました」
「ええ、ありがとう」
声掛けと共にドアを開けて手を差し出してくれる。なんて紳士なのか。これが現代日本にいたら大モテね。いや、案外そうでもない?出来る男と紳士な男はモテるっていうけど。でも私はわんこ系とかちょっと残念な可愛いのが好き。
「いってらっしゃいませ」
「ええ、帰りもよろしくね」
それだけ告げていざ門へ、と足を向けたところで立ち止まる。
うっそぉ〜…なにこれ…城?城なの?学校とか言いながら私は城にでも連れてこられたの?
目の前に広がるのはあまりにも大き過ぎる建物で、門の先には噴水があり、女神のような石像まである。なにこれ…。税金の無駄遣い過ぎるでしょ。どう見ても。この世界そんなに人口多いの?学校ってここしかないんじゃない?
とかぶつぶつと呟いてると後ろから声が掛けられた。
「おはようございます、マリアーネル様」
………。
どうしよう。誰か分からない。
え、覚えてるでしょよゆーとか思った数分前の私を殴りたい。
「マリアーネル様?」
「え?あ、ああ、ご機嫌よう」
何とか名前を呼ばないようにして適当な笑顔を貼り付けて小首をかしげるような仕草でかわした。これは小説で読んだだけなので礼儀としてはきっとダメだろうと思ったが今は仕方ない。何とか乗り切る。
「クラスまでご一緒しても?」
「ええ、構わないわ」
よっしゃあああ!これで教室まで迷子ってことは避けられる!なにこの子ちょーいいこ!!と思わず内心でガッツポーズしてしまった。
しかしそれがどうも良くなかったらしい。周りからヒソヒソと話す声が聞こえる。
「なにあの子…。どうしてマリアーネル様と?」
「庶民のくせしてよく話しかけられるわね」
「何で彼女がここにいるのかしら、さっさと退学でもすればいいのに」
コソコソとした話し声に隣を歩く彼女は少し俯いた様子でどこか泣きそうにも見えた。名前を知らない私はどうしたらいいだろうと悩み、話すネタもなくてただ並んで歩く。いやあなたも何か話しなさいよせめて!どういうこと!?話しかけてきたならなんかあるのかと思うじゃない!ないの!?
「あの…」
「あ、えっと、ごめんなさい!迷惑でしたよねやっぱ…!庶民なんかの私が話しかけるなんて…」
なんでそうなる!?別に誰が誰に話しかけたってよくない!?だめなの!?いやだめか。この世界ではきっと身分というものが大きく関わるのだろう。
となると、庶民というこの子が私に話しかけた時点できっとだめなのだ。でもここは学校。門を潜ればそれは皆もう平等な筈なのだ。
「いいえ、構わないわ。だってもう門を通り過ぎたんだもの、私もあなたも身分は同じではなくて?」
何で上から目線なんだルカー!!ごめんなさいごめんなさいと内心平謝りする。しかしあまり下手に出るのも良くなさそうだったし、仕方ない。そうよ、仕方ない。
「ふふ、そう言っていただけるととても嬉しいです。勇気を出してみて良かった」
「そんなに私は話しかけづらいの?」
「いいえ。でも私なんかが話しかけていいとは思えなくて。名前だって知られてないようですし」
「あなた、名前は?」
「え?」
「だから、名前」
「あ…リアラ、リアラ・カースンです」
「そう、リアラね。名前知ったわよ。だからこれからは沢山話しかけなさい」
「え…」
なによ、なんか文句でもあるの。と周りに言うようにちらりと見る。するとそそくさと皆は散り散りになっていき、隣にいたリアラだけが足を止めて私を見ていた。
「遅刻するけどいいのかしら」
「あ、だめ!だめです!行きましょう、マリアーネル様!」
リアラは私の手を取ると急ぎ足気味で教室へと向かっていった。私まで引っ張るってどうなのとは思ったけど遅刻するよりはずっといい。大人しく私も引っ張られるままに少し早足で教室へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます