第二十七話

 清白王きよあきおうたちを見ていたら、真楯またてと目が合い、三人はこちらにやってきた。

「お茶しているの?」と真楯またて

「うん、そう。黄葉もみじばの薬草茶よ」

「飲みますか?」

 黄葉もみじばは立ち上がって言った。

「うん、いただこう」

 五人でお茶を飲む。

 平和だなあ。

 お茶のいい香りが漂う。お茶は夏に合わせて、冷たいお茶。祈言きごんで冷たいまま飲めるようになっていた。


「そう言えばさ、黄葉もみじば八束やつかと一緒に七夕しちせきの祭りに行くんだって?」

 真楯またてに言われて、黄葉もみじばは真っ赤になりながら、「は、はい!」と言う。

「よかったね、黄葉もみじば

 真楯またてはそう黄葉もみじばに言い、嬉しそうに笑う。


 ――あれ?

 もしかして、真楯またて黄葉もみじばの気持ち、知っていたのかな?

 それに。

 真楯またて黄葉もみじばを見る目を見て、気づいてしまった。

 真楯またて黄葉もみじばが好きなんじゃないかと。


 真楯またてと目が合うと、真楯またては「内緒ね」みたいに笑う。

 八束やつか黄葉もみじばは並んで座って、七夕しちせきの祭りの待ち合わせについて話していた。ふたりとも、とても幸せそうに見えた。真楯またては二人を嬉しそうに見ていた。



 四阿あずまやから屋敷に戻るとき、真楯またてに何気なく聞いてみた。

「ねえ、真楯またて真楯またて黄葉もみじばの気持ちを知っていたの?」

「うん、知っていたよ。ずっと、早くくっつくといいなあって思ってた」

「そうなんだ」

八束やつかは鈍感だからね。でも、おれと双子だから、黄葉もみじばのこと、絶対に好きだと思っていたよ」

「そう」

 ていうことは、真楯またて黄葉もみじばを好きだってことよね。


「……黄葉もみじば、いい子だよね。かわいくて。……おれ、あの四阿あずまやで泣いている黄葉もみじばを見てから、ずっと黄葉もみじばのこと、気にしていたんだよね」

「え?」

「卵を割っちゃったって、泣いていたんだ」

 そのエピソード、黄葉もみじばの中では八束やつかになっている。

 あたしの視線に気づいて、真楯またては言った。


「でも、いいんだ。黄葉もみじばは仕事をしている八束やつかの真面目さとかそういう姿を見て、八束やつかが好きになったんだから」

 ああ、そうか。きっかけは卵でも、その後の恋の対象は八束やつかなんだ。

「おれはさ、二人とも好きだから、二人が幸せになったら、それでいいんだよ。七夕しちせきの祭りに二人で行くことになって、すっきりしたよ!」

 真楯またては太陽みたいに笑う。


 真楯またてがちゃらちゃらしているように見えたのは、黄葉もみじばのことがあるからかもしれない、とふと思った。八束やつか黄葉もみじばを見守る真楯またてを見ていたら、真楯またてにも早く素敵な人が現れるといいと思った。



「宮子さま」

 屋敷に入ろうとしたとき、呼び止められた。

光子ひかるこさま」

 光子ひかるこは相変わらず華やかな美しさで、現れた。そして、今日はいつもの女官じゃなくて、同い年くらいの男性を連れていた。


「宮子さま、わたくし、お願いがあって」

「なんでしょう?」

「宮子さまに七夕しちせきの祭りの短冊を書いていただきたいのです。……二人分」

 光子ひかるこは頬を染めながら、言う。

「二人分?」

「そう。わたくしと、この赤見あかみと。自分で自分の祈言きごんは書けませんし、それに宮子さまは能力の高いお方ですから」


 赤見あかみって、確か乳兄弟の? 

 側に控えていた男性が頭を下げて、彼が赤見あかみだと分かった。優しい目をした男性だった。

「……一緒に七夕しちせきの祭りに行くの?」

「ええ。……まだお父さまたちには言っていませんが」

 光子ひかるこはそう言って目を伏せ、赤見あかみ光子ひかるこの手をそっと握った。

 お姫さまも大変だ。


「分かったわ。短冊、書くわ」

「ありがとうございます! ……宮子さま、ほんとうにありがとうございます。わたくし、いろいろしてしまったのに……」

 涙ぐむ光子ひかるこを、赤見あかみがそっと撫でる。

 いいなあ、幼なじみからの恋。

 何がどうなって、赤見あかみと七夕の祭りに行くことにしたのか分からないけれど、ともかく光子ひかるこが、自分が本当に大切にしたいものに気づけたのはいいことだと思った。


 それに。

 光子ひかるこがしたことは、光子ひかるこのせいじゃないのよね、結局は。

 誰なのかしら?

 光子ひかるこに囁いたのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る