第二十五話

八束やつか真楯またて! 帰っていたの?」と阿胡あこが嬉しそうに言う。

 長身のイケメンが二人。

 八束やつか真楯またてだ。

 二人揃うと壮観だなあ。

 などと思っていたら、八束やつか真楯またての後ろから清白王きよあきおうが入ってきた。


清白きよあきさま」

宮子みやこ

「どうなさったのですか?」

「いや、七夕しちせきの祭りの準備をしてもらおうと思ったら、屋敷にいなかったから」

 と清白王きよあきおうが言うと、真楯またて

黄葉もみじばははき氏の屋敷に行ったと聞いて、お迎えに来たんですよ。何しろ、一刻も早く会いたかったらしくて」

 とちょっとにやつきながら、言った。

「ちょっ、な、なにを! いや、久しぶりに阿胡あこの顔も見たかったし」

 清白王きよあきおうが少しうろたえてそう言う。こんな清白王きよあきおうを見るのは滅多にないことだった。


「いらっしゃいませ、清白王きよあきおう

阿胡あこ。息災か?」

「はい、おかげさまで」

「新しい護符を持って来たから、貼り換えておくがいい」

「いつもありがとうございます、清白王きよあきおう

 空気がとてもあたたかい。


 ユキヤナギの白い花が、喜ぶように舞って、それから外へと飛んでいった。



「それで、なぜははきの屋敷に行ったんだ?」

 帰りのくるま清白王きよあきおうと二人だった。

「あ、それは」

 そうだ。

 黄葉もみじばの恋の応援のために、八束やつかのことを知りたくて行ったのに、結局聞けず仕舞いだった。


「ねえ、清白きよあきさま」

「なんだ?」

八束やつかには、決まった相手はいるんですか?」

「なぜ、そんなことを聞く?」

「えーと、それはあの」

 口ごもっていると、清白王きよあきおうはあたしの手首を掴んで、そして顔を近づけて真剣な顔をした。

「なぜだ?」

「それはあの、黄葉もみじばが」

黄葉もみじば?」

黄葉もみじばが、あの、その、八束やつかが好きだと言って……」

「……なんだ、そうか」

 清白王きよあきおうは安心したように息を吐いた。


清白きよあきさま?」

八束やつかには決まった相手はいないよ」

「好きな人は?」

「いないんじゃないかな。真楯またてはいろいろと楽しんでいるようだが、八束やつかはそんなことは全くないから」

「そう。じゃあ、黄葉もみじばのこと、どう思っているかな? 七夕しちせきの祭りに、黄葉もみじばと一緒に行ってくれるかしら」

黄葉もみじばのことは好ましく思っていると思う。ただそれがどの程度のものか分からないが。しかし、七夕しちせきの祭りに黄葉もみじばを誘うように、それとなく仕向けることは出来る。わたしに任せておけ」


「はい! よろしくお願いします。……初めから清白きよあきさまにお願いすればよかった」

「その通りだよ」

 清白王に引き寄せられ、寄りかかる形になる。

「でも、清白きよあきさま」

「ん?」

「あたし、阿胡あこさまにお会いしたかったのです。あなたをお育てした方だから。……清白きよあきさま、阿胡あこさまといると優しいお顔になります」

「……そうか」


 あ。

 そう言えば、嘉子かこ皇后がどうして亡くなったか聞くのを忘れてしまった。


 清白王きよあきおうがあたしの頭に手をやる。

 その手があたたかくて、あたしはそっと目を閉じた。

 ――また、今度にしよう。

 いまはこのあたたかさに浸っていたい。

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