第六話
「この、髪。
「あ、うん。髪はね、染めたりせず、黒髪がいいなと思っていて。……
どきどきしながら言う。
「わたしの髪と瞳は天皇家に稀に現れるものなんだ」
「へえ、特別な色なのね」
あたしは、美しい白い髪と金色の瞳を見る。
「宮子どのの濡烏色も特別な色だよ」
ちょっ、待って! あたしの心臓持たないから……‼
「あ、うん」
大人の落ち着きも忘れて、どぎまぎしながらそう言う。
「わたしも、わたしの父である今上帝も、起き上がることが出来ないほどだった。しかし、宮子どのがここに来たことで
「宮子どの。宮子どのは確かに橘の始祖の血筋のもの。
「……
皇太子の立場のものがこんな風に頭を下げている――本気なのだ。
「宮子どの――巻き込んですまない」
「いいのよ」
そう、いいのだ。
あたしは三十歳になって、ふいに孤独感ややるせなさに襲われていた。自分だけが出来ることなんて何もないと思っていた。文字を美しく書くことだけが特技で、それも活かす場所がなくてさみしかった。
だけど、ここではその文字の能力を活かすことが出来る。特別な力を伴って。
あたしが文字を書くことが得意だったことは、もしかしたら
「それで、あたしは何をすればいいの?」
「……わたしとの
「
「婚姻のための儀式だ。儀式を行うことは、
そして、美しい顔で、あたしをじっと見つめる。声は実にいい音色で、あたしの心に甘く届く。
――どうしたら断れるの、これ。心臓が止まりそうなんだけど。
「分かりました。
「……その後は、皇太子妃として、わたしを支えて欲しい。様々な役割があるのだ。文字の能力を使った仕事がある」
「例えば、どんなことなの?」
「そうだな。例えば、病を治す、或いは病にかからないように祈る。子どもが無事に生まれるように祈ったりもする」
「なるほど」
医者の仕事もあるわけね。文字の力で病気がほんとうに癒えるんだ。
「……引き受けてくれるか」
「――いいわよ!」
要するに、これはお仕事。文字の能力を使ったお仕事で、契約結婚みたいなものよね。……この世界に契約結婚という概念があるかどうか、分からないけれど。
あたしはにっこりと笑ってみせた。
そして、あたしの手をとって、あたしの目をじっと見た。
――どうしてそんな目で見るの? どきどきが止まらないんだけど!
「ありがとう、宮子どの。ちゃんと、そなたを守る。ずっと大切にすると、誓う」
「あ、うん」
ああ、だめ! それ反則だから。そんな風に見つめられたら、勘違いしちゃう!
これはお仕事!
それに。
だから、あたしが、彼を守りたい。
だって、あたしの方が大人なんだから!
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