第二節 緑と花と鳥、そして衣擦れの音――イケボの持ち主は、やはりイケメンだった!
第三話
気づくと、あたしはきらきらした光に包まれたまま、宙に浮いていた。
不思議だ。
落ちる、とは思わなかった。静かにゆるやかに下りてゆけると、分かった。
煌めく光だけでなく、白い花も舞っていて、なんとも幻想的な光景だった。
白い花は、白いツバキ? ……ううん、あれはヒメシャラ。
「おばあちゃん、白いツバキがあるよ」
「
祖母の言葉が蘇る。
そのヒメシャラが幾つも幾つも、やわらかな光とともに舞う。
――どこからか、歌声が聞こえた。
人間の声ではない、不思議な声。確かに歌だけど、歌の言葉は、知っているどの言語でもなかった。でも、なんて美しい旋律。
「
声がして、そちらを見ると、真っ白な鳥が大きな翼を広げ、空を舞っていた。そして、ゆったりと飛びながら、うたを歌っている。まるで祝福のようなうた。鳥の瞳は金色で、優しい光を湛えていた。尾が長い大きな鳥で、頭には孔雀のような王冠の飾りがあった。
空には
輝く緑の山々。澄んだ水を湛えた川や湖。柔らかな緑の草原。溢れんばかりの花々。
そして、見たことのない形状の建物。
木造建築であることは分かる。日本家屋のように思える。――しかし、何か、違和感を感じた。
地上に近づくにつれ、そこにいる人々がはっきりと見えた。
日本人――? でも、服装は現代のそれではない。みな、着物を着ていた。鎌倉時代くらいの装いに見えた。髪はみな長く、男性は高いところでひとつに結わえていて、女性はそのまま垂らしているものもいれば、一部だけ結わえているものもいた。
みな、あたしを見ていた。
その瞳は喜びに満ち、歓喜の声が聞えた。
地上に完全に降り立つ。
――ここはどこだろう?
ふと自分の右手を見ると、なぜか筆を持っていた。
筆?
軸は濃い茶色をしていて、毛は白く、美しい文字が書けそうな筆だった。
そのとき、甘く、いい声がした。
「我が
あのときのイケボ! 「その願い、叶えよう」と同じ声!
声のした方を見ると、黒髪黒目の人々の中で、真っ白で真っすぐの髪を長く垂らした、金色の瞳のイケメンがいた。涼やかな目元の、美しく整った女性的な顔立ち。すらりとした立ち姿。金色の瞳は優しく輝き、でも意志の強さも感じた。真っ白な髪は光を称え、さらさらと揺れる。二十代前半かな? 若いなあ。ああもう、イケボの持ち主はやっぱりイケメンなんだ! 超かっこいいんですけど!
そのイケボでイケメンの彼は、あたしの手を恭しくとり、「我が妃よ」ともう一度言った。
え? 妃? なんのこと?
ちょ!
イケメンがあたしの手にキスしてるんですけど!
だめだめ! あたし、免疫ないんだからっ。
「
「なんで、あたしが橘だって知っているの?」
イケメンパワーにくらくらしつつ、ようやく、それだけ言う。
イケメンはそれには答えずにっこりと笑い、そのきらきらとした笑顔に、あたしの心臓は止まりそうになったのだった。
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