第三十四食 占いって、悪い結果だったらどうしようとか思って見るの怖くなっちゃう

 薄暗い地下の一室。例の占い師は、黄色の机の後ろに置かれたイスに腰掛けていた。黄色いローブを纏っていて、顔は見えない。

 まず初めに驚いたのは、占い師と同じように黄色いローブを纏った人間がその空間に大勢いたことだった。皆、その占い師の崇拝者ということだろうか。何も言わず、じっとしているのが奇妙だった。

 二人も入り口で、女性のスタッフ――彼女も同様にローブを纏っていたため、声でしか判断できなかったが――からローブを渡され、着用させられた。

「それでは……。一番の方、どうぞ……」

 男性の声だ。

 占い師がそう言うと、ローブの中の一人が前に出る。

「ねえ、こんなんさ。番号札ももらってないのに、一番もなにもなくない? 俺たち何番かな?」

 衣素がくすくす笑っている。こんな時にさえ、こうしてヘラヘラしていられるのだから、この男はこの仕事に向いているのだろう。

「手相占いか……」

 占い師は客の手を取り、顔を近づけて見ている。

「決まりだ」

「え?」

「ほら、よく見てごらん」

 衣素の言うとおり目を凝らすと、一瞬、手のひらに黄色い何かが見えた。

「あれって、種属膳?」

「ああ」

 種属膳の効果は【掌握】。以前、掌を襲った大将は犬を操っていた。あの占い師の属繊から出力される種属膳は、他人の精神に影響を及ぼすことができるのだろう。

 この部屋全体が黄色をベースに構築されているのは、種属膳を隠すためだ。

「衣素さん、どうす――」

「なるほどね。塗り込んだ相手の体内に残留するタイプか」

 気がつくと、衣素はローブを脱ぎ捨て、前方に進んでいた。

「ちょっと、衣素さん――」

「手相占いなら、手に触れても違和感ないしな。効き目が弱まりそうになったら、またここに来させるようにしてるんだろ?」

 掌もローブを脱いで前に出る。

「何だ? お前たちは?」

 男が立ち上がる。

「お前こそなんだよ? 適当な占いで無理矢理金払わせて楽しいか?」

 男は言い当てられたような顔をした。

「くそっ! こいつらを取り押さえろ!」

 男が叫ぶと、ローブを纏う者たちが近づいてきた。

 衣素が揚属膳を出す。

「お前みたいな奴が考えることは、お見通しなんだよ!」

 揚属膳を靴につけ、部屋を縦横無尽に駆け回ると、次々に皆を気絶させていく。

「後はお前だけだ」

 男が後退りする。フードは取れ、焦った顔が露わになった。

 衣素が足を上げたその瞬間、掌は背後で何かが動く気配を感じた。嫌な感じがして、咄嗟に衣素の体をつかんで引っ張る。

 二人が倒れ込むと同時に、何かが男に向かって飛んでいくのが目に入った。

 次の瞬間、何かが顔にかかった。反射的に目をつむる。恐る恐る目を開ける。目を開き切る前に、掌はそれが何か鼻で感じ取っていた。


 ――血だ。


 手でそれを拭うと、おぞましい光景が広がっていた。

「わ!」

 思わず声が出た。濃い色の液体――血液だろう――が飛び散った床の上に広がり、占い師の首が床に転がっている。

 胴体や首の近くには、青い破片のようなものが広がっている。練属膳だ。

 人間の首を切断するほどの練属膳。練属膳は本来、人体に傷を与えられないはずだが、これは……。

 掌には覚えがあった。


 ――まさか……。


「これも予想できていたか?」

 声の主は黄色のフードを外す。衣素の攻撃を受け、気絶したフリをしていたのだろう。

 その人物は、先の戦闘で衣素と掌が引き分け、惜しくも取り逃がした男――漆箸うるしばしかなめだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る