第二十食 信号機の色の順番はいつも思い出せなくなる

 ムツノスケと名乗るその蜂は、赤い羽で飛び回りながら告げる。腰には信号機のように赤、青、黄のボタンが並んだベルトが巻かれていた。

「ホントは全部の鬼を倒せればそれでよかったんだけど、どうせならお前のバッジをもらっておくか。元々あいつらはお前のバッジを奪うのが目的だったんだから、僕がやれば、あいつらはもう何も言えないだろ」

 ムツノスケは掌を目指して飛んでくる。掌は思わず目をつむった。

 何も起こらない。

 恐る恐る目を開くと、頭上から黄色の粉のようなものが降ってきた。それはムツノスケの靴から放たれているようだ。揚属膳同様、種属膳にしては、色がやや暗い。

 全身がビリビリしてきた。掌はその場にしゃがみ込む。

 アゲダママルが飛んでくる。先と同じ要領で、手際よく自身の属膳を掌の体に流し込む。

「くそ!」

 衣素は素早く回り込み、跳躍して足を伸ばす。しかし、蹴りがムツノスケに届く前に、彼は姿を消した。

 掌の目の前にムツノスケが現れる。掌は反射的に胸につけたバッジを左手で覆う。右手に持った青い爪楊枝で足もとを狙った。

 しかし、ムツノスケの体に届く直前、黄色の粉が再び靴を覆う。それに触れた掌の手首は痺れ、爪楊枝は地に落ちた。

 アゲダママルが蜂の顔に飛びつく。

「うわっ! 何だこいつ!」

 ムツノスケはその攻撃に面食らったようで、声を上げた。混乱したのか、ムツノスケが赤い羽で後方へ飛ぶとアゲダママルは振り落とされた。

 ムツノスケが青のボタンに手をかけると、服の袖から円形の青が放たれる。ピザをカットするときに用いる刃のような形だった。こちらも練属膳にしてはやや色が暗い。

 それはわずかに弧を描きながら飛んでいくと、近くの木の根元に食い込む。刃こぼれしながら、着実に木を切断していく。バランスを崩した木が、断末魔の叫びのような奇妙な音を立てて傾く。

「アゲ! 危ない!」

 衣素はサッと移動し、倒れているアゲダママルを拾い上げた。

 木は彼のいた場所を踏み潰すように倒れ込む。

「こいつ、何なんだ? 他の膳繊手とまるで違う」

 掌がそう言うと、待っていたかのようにムツノスケは口を開いた。

「当たり前じゃん。僕は膳繊手じゃないんだから」

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