第十四食 アプリはどんどん溜まってく

「よし。それじゃあ、こうしましょう」

 両手でパンッという音を出し、食事を終えた皆に菊池が告げる。

「ここには海堂掌君を引き入れんとする者が集まっている。君たちもこのまま帰らされたのでは納得いかないだろう。後日、個別に詰め寄られたのでは、掌君もキリがない。そこで――」

 皆の視線が菊池に集中する。

「この広大な地を使った隠れ鬼を開催します!」

「おお!」

 思いの外、場は盛り上がっている。

「何なの? この人たち……」

「はい、静かに、静かに。ルールを説明するぞ」

 菊池は手を叩いて、団員たちを落ち着かせる。


 ――この人、ホントに学校の先生みたいだな。


「参加者には全員、このバッジをつけてもらう――」

 スタッフがバッジを手際よく配る。

「まず、掌君たちはこの地のどこかに隠れてください。半径一キロ、どこに隠れても構わない」

 この広場の周囲には木々が広がっている。隠れ場所を探すことは、そう難しくはないだろう。

「逆洗君は掌君たちについてください」

「あっ、はい……」

 突然指名され、逆洗は驚いたようだ。

「彼らが出発した二十分後、鬼が出発する。無論、鬼は掌君をスカウトするために集まった君たちだ」

 菊池は団員たちの方を向く。

「バッジはボタンを押すと電源をオフにできる。バッジを奪われ、電源を切られた者はそこで失格。制限時間は一時間。それまでに掌君のバッジを手にした者が、彼を引き入れることができる」

 そこで、衣素が口を開いた。

「俺たちはどうすれば勝ちなんだよ?」

「制限時間まで掌君のバッジを守るか、鬼を全員失格にすれば勝利だ」

 とにかく互いのバッジを奪い合えばいいということだろう。

「全参加者の位置は、アプリで十五分ごとに確認できる。各ブロックの頭に知らせるからな」

植瑠暖ウェルダンってアプリとかあるんだ……」

「鬼同士の潰し合いは禁止とする。こっちの端末からはバッジの中のカメラを通して、逐一状況を確認できるようになっている。ズルしようとしても無駄だぞ。それから衣素君。君は掌君から離れるの禁止だ」

「え! 何で?」

「そうでもしないと、君はすぐ仲間を危険な目に遭わせるだろ? 君が責任を持って、彼の面倒をみなさい」

「わかったよ……」

 衣素は決まりが悪そうに返事をした。

「それじゃあ、今から五分間、作戦会議だ」

 突然、作戦会議が始まった。衣素、掌、アゲダママル、逆洗で輪になる。

「衣素さん、どうする?」

「とりあえず、始まったらできるだけ遠くに逃げよう。そんで、鬼に出くわしたら、その都度倒すってことで」

 突然、作戦会議は終わった。実質、ルール確認だった。先輩らしく導いてくれるかと思っていたが、彼を買い被っていたようだ。

 衣素はポケットから携帯を取り出すといじる。

 操作が終わったのか、画面から目を離し、口を開いた。

「あの、何か作戦とかあります? 皿洗さらあらいさん」

「あ……。逆洗さかあらいです。店では厨房で、料理つくらせてもらってます」

「すいません……」

 皆の様子に違和感を覚え動揺したのか、衣素が逆洗に話を振る。

「そうですね……。えっと、衣素君の言うとおりで大丈夫だと思います……」

 逆洗も急にボールをぶつけられ戸惑っている。

「そうですよね。俺の言った作戦で大丈夫ですよね?」

 特に何もない空白が続いた。

「そうだ!」

 衣素が突然大声を出したので、皆は驚いた。

「それぞれの属膳と属繊を確認しよう。仲間のことを知っておくことは重要だろ? じゃあ、俺からな。俺は揚属膳で、左手に――」

「はい! 作戦タイム終了ー!」

 菊池の声が広場を裂く。

「それでは隠れ鬼、スタート!」

「よしっ! 行くぞ!」

 衣素が走り出す。

「あっ! ちょっと!」

 掌たち三人は彼に続く。

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