第十三食 つくるのは長時間、食べるのは短時間
「てっきり、狙われてる俺を助けに来てくれたのかと思った」
「見た通り、この中で俺が一番強い。掌、どうだ?」
朝方も掌を仲間にしようとしているらしい。
「どうだじゃねえよ。俺は衣素食道で働いてんだ。どこかに移るつもりはないよ」
衣素が怒鳴り込む。
「掌は
衣素は辛そうな表情をする。
「いちいち騒ぐんじゃねえ。いい加減慣れろ」
「菊池さんも、何か言ってくださいよ。だいたいこいつらがやってること、研修の妨害じゃねえか!」
衣素が菊池に詰め寄る。
「う〜ん。まあ、私はある程度、みんなの自主性を大事にしたいからな。掌君をスカウトしたいっていう人がたくさんいるなら、彼らの気持ちも大事にしたい」
「そんな校長先生みたいなこと言ってる場合か?」
「とりあえず、めちゃくちゃになっちゃったし、なんか夢の中だと思いたいくらい臭いから、一旦カレーつくってリセットしようか」
「傷つきます、校長先生。俺の気持ちも大事にしてください」
朝方がぼやく。
「掌、お前料理うまいな!」
衣素は掌のつくったカレーを気に入ったようだ。アゲダママルも喜んでいる。衣素が掌の料理の腕を確認したいと言い始めたことで、工程のほとんどを掌一人が担うことになった。いい迷惑だ。
「なんか懐かしい感じがする。これなら、俺じゃなくて掌に厨房に立ってもらったほうがいいかもな」
「衣素さんの料理だってあんなにうまいのに。どんだけ自分に厳しいのよ」
「俺なんて、まだまだよ……」
衣素のつくった料理を食べたことはあるが、文句のつけようがなかった。衣素食道の噛めログ――飲食店の口コミなどが投稿されるサイト――での評価も高い。
「衣素のつくってくれるご飯もおいしいよ」
アゲダママルのその言葉に嘘はないようだ。
「ありがとう、アゲ。掌、お前どっかで修行とかしてたのか?」
「いや、高校の時に料理部にいて、その時先生に教わったくらいだよ」
衣素があまり騒ぐので、興味を持ったスタッフたちや乱入してきた団員たちにも振る舞うことになり、数十人分のカレーを――もちろん、衣素にも手伝わせたが――つくらされることになった。
彼のカレーは皆からも好評で、掌は誇らしくなった。掌を引き入れたい一心から、彼の機嫌を損ねないようにしているだけなのかもしれない。しかし、これだけの人間に褒められると素直に嬉しかった。
ただ一人、掌とともに研修会に参加していた男――逆洗だけは、浮かない顔をしているようにも感じられた。
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