第十二食 アメ色って、タマネギの炒め具合の説明以外で見たことない

「今から掌君と逆洗さかあらい君には、ある課題に挑んでもらう。衣素君とアゲ君には、掌君のサポートをしてもらうよ」

「任せろ!」

「よろしくね!」

 衣素とアゲダママルは意気込んでいる。

「逆洗君は……」

「僕は一人で大丈夫です」

 気の弱そうなその男は、力強く返事をした。

「そうか」

「それで、訓練って何をするんですか?」

 掌は待ちきれずに聞いた。

「そうだね。それじゃあ、頼んだよ――」

 菊池がそう言うと、周囲を取り囲む木々からガサガサと音が聞こえた。陰から二、三十人が飛び出すと、あっという間に皆を囲んだ。にんじんやじゃがいも、肉などの食材が描かれた仮面をつけている。

「何なんだ、この人たち……」

 掌が動揺していると、菊池が口を開いた。

「これが植瑠暖ウェルダン流の研修会だ。今から君たちにはカレーをつくって親交を深めてもらう。同じ釜を食った者同士は絆が深まるというだろう。だが単につくって食べるだけじゃつまらない。食材はここにいるうちの膳繊手を倒して手に入れてもらう」

「え……」

「彼らが胸につけているバッジをとれば、その団員がつけている仮面に描かれている食材を獲得できる」

「これ研修会っていうより、お楽しみ会じゃねえか!」

 手が滑り、構えていた矢を放ってしまったかのように、その言葉が掌の口から出た。

「だから言ったろ、掌。『行ってからのお楽しみだ』って」

 衣素が親指を立ててこちらを見る。

「あれ、そのまんまの意味だったんかい!」

「掌君、まずはコクを出すために、タマネギを狙おうよ」

 アゲダママルが耳をパタパタさせる。

「できるだけ多くの食材を集めたいけどな。思い切ってターゲットを絞ってもいいかな……」

 逆洗がつぶやく。

「何でこの人こんな簡単に受け入れられるの?」

「とにかく、ものは試しだ。やりながら考えればいいよ。それじゃあ――」

「ちょっと、まだ作戦も何も――」

 あたふたする掌をよそに、菊池は続ける。

「スタート――」

 その時、仮面をつけた膳繊手の一人が倒れた。

 呆然としていると、先と同様、木々の陰から、二十人くらいの人々が飛び出してくる。

 手に何かを持っている。属膳だ。


 ――今度は何だ?

 

 彼らは仮面の膳繊手たちの不意を突いて攻撃する。次々に倒れていく彼らから、手際よくバッジを奪い取った。

 次に始まったのは、二十人での潰し合い。一人が倒れ、勝者がバッジを奪い取り、また、一人倒れ……。

 残った五人は、肩で息をしながらこちらに近づいてくる。もはや気力がないのか、それ以上戦うことは諦めたようだ。

 彼らは掌の前まで行くと、手のひらを差し出す。開かれた手の上には、各々が集めたバッジが乗っていた。荒い呼吸で話し始める。

「君……」

「これ、あげるから……」

「俺たちの部に――」

 その時、灰色の霧のようなものが現れた。背後から迫ってきたようだ。異様な臭いがする。もしや……。

 掌に迫っていた膳繊手たちは苦しそうにしている。気絶する者まで出る始末だ。

「まったくよお。右も左もわからねえ新参者を囲んで、てめえら恥ずかしくねえのか?」

 振り返ると見覚えのある男がそこにいた。朝方だ。

「何でお前がいるんだよ?」

 衣素がイラついている。

「今や、おまえ植瑠暖ウェルダンじゃ有名人だ」

「何で……」

 鼻を腕で覆いながら聞く。

「この前、お前に尋問を手伝わせただろ? それを偵察部に報告したら、お前が有能な膳繊手だって話が広がってな。各部や店の奴らが、お前を引き入れにここに来たってわけだ」

「それじゃあ、朝方さんはその人たちから俺を守るために――」

 掌がそう言うと、朝方は膳繊手たちが落としたバッジを集め、掌の前に差し出す。

「君、これあげるから、うちの店に所属しないかい?」

「お前もこいつらと一緒じゃねえか!」

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