第9話『うまく行き過ぎた』(2/2)

 ヒロ自身には、魔力たる力は感じるものの具体的に何かができるわけでもなかった。

 ラピスが何やら作ってくれたのを駆使して、恐る恐る力を行使するという感じだ。

 

 そういう力を駆使する意味では、ヒロは場所を選ぶものの、あの少しばかりあるワクワク感は彼らと同じかもしれない。


 ただ性格に関係なく大きく変動する要素も誰しも持つことになる。

 それは、『共食い』が代表たる事例だ。

 あの時ヒロの場合は、性格が豹変してしまう。

 それは後からラピスにより気が付かされたことだ。


 ただし、魔人化のときはどこか冷静な自身がいるけども、今まだ成れない。


 ありとあらゆる暴力的な行いが日常茶飯事になってくると、無政府で無秩序な状態ではいずれ荒廃した町になってしまう。

 すでに物流も止まっているし、恐らくは各種品物の生産や輸出入も止まっているとみた方がいい。

 かつての日本なら、暴動など起きやしないとたかを括っていても、今はみな力のある者は危険だ。

 力あるものは、傍若無人に振る舞うところから恐らくは、暴動は平気で起きるし治安が著しく悪化すると見えた。

 

 ただ今までと違うのは、皆少しずつ魔力を持つ者が増えつづけていることだ。

 持てる者と持たざる者の違いは、ゆっくりとではあるものの、少しずつ埋まっていく。

 

 中には、組織だって動く者も出始めても不思議ではない。代表されるのはリナの教団とゴダードの新たな国家とも呼べるべき組織だ。


 いずれ、力ある者により支配する時が来るのかもしれない。

 とはいえ、セトラーがくる前の限定的な話だろう。

 

 彼らが来る前に準備をしておかなければならない時に、このようなことで日本人同士が揉めていても、いいことなど何もない。

 とはいえ止めることもできないし、止めている場合でもない。

 

 ラピスが言うように、今できることを進めていくしかないのかもしれない。

 その意味では、自身の強化だけはうまくいきすぎるぐらいうまくいっている。

 今のこの順調さは、怖いぐらいだとヒロは思っていた。


 ――ふとヒロは思う。

 

 これだけ順調だと実は、心配するほどでもないのかもしれないと思い始めてしまう。

 ところがその思いは願望であって、現実とそぐわないことは薄々わかってはいるものの、やはりうまくいくとその考えに寄りかかってしまう。


 そこでヒロは気になることをラピスに尋ねてみた。

「ラピス、気になることがあるんだけど」


 変わらず半透明のまま、今日はワンピース姿になって軽やかな感じで振り向きいう。

「どしたの?」


 前々から気にはしていたけど、聞きそびれてしまった物をヒロは聞いてみた。

「この手の甲にある紋様と、なぜか英語に見えるこの文字って……」


 ラピスは非常にあっけらかんとして、軽く答えをくれた。

「ああ、それね。ヒロがどれだけ美味しいか示すものよ」


 思わずギョッとし、口は横に開き目を顰めてヒロはいう。

「マジで?」


 ラピスはなんだか楽しげにいう。

「うん。マジー!」


 そこでヒロは思い起こしながらラピスに伝えた。

「初めは1Goodと浮かんでいて、今は2Niceになったな……」


 変わらず、軽く答えがくる。

「それね、全部で9段階あるよ?」


 予想していたより非常にシンプルなようでヒロは類推しながらいう。

「それは段階が上がるほど、それはもう美味しい対象ということか?」


 ラピスは、高ランクの肉は美味しいよと言いたげな感じでいう。

「そうね。ヒロの世界で言うなら最高ランクはA5ランクの牛と同じよ?」


 牛と言われて咄嗟にヒロは、焼肉を思い出してしまった。

「どんな……段階なんだ? 今の俺って」


 するとラピスは指折りながら、上を見上げて数え始めながらいう。

「簡単いうとね、下から1のGood・2のNice・3のGreat・4のExcellent ・5のWonderful・6のBrilliant・7のFabulous・8のOutstanding・9のWicked の9個ね」

 

 ヒロは自分だけなのか、それとも他の人らも同じか聞いてみた。

「これは、全員記されているのか?」


 するとラピスは当然のようにいう。

「もちろんよ。いずれヒロは8のOutstandingまで到達しないとね」


 ヒロは焼肉屋で船の器で運ばれてくる、肉の盛り合わせを思い浮かべながらいう。

「それってセトラーから見たら、美味しそうな肉が歩いているのと同じだよな?」


 ラピスは桜色の唇を紅色の舌で唇をなめずりながら、いう。

「そうよ。もうね、誰が食べるか争奪戦ね」


 ため息まじりにヒロはいう。

「笑えないけど……。彼らから抗うには、最低でもどの段階なんだ?」


 するとラピスは、おとがいに手を当てて、考えるような仕草でいう。

「そうね……。6のBrilliantに到達していないと、抵抗すら叶わないわ」


 思わぬ高さにヒロも考えこみながらいう。

「結構、高いな……」


 この抗うための魔力を高める行動が、反対に彼らを楽しませることになる。

 セトラーにとっては喜ばしい行為であることに対して、困り顔でラピスはいう。

「抵抗するために段階を上げて、上げるほど美味しくなるという。力をつけるはずなのにね、皮肉な話よね」

 

 ヒロは再び大きく、ため息まじりにいう。

「それでも俺は、あげるしかないか……」

 

 ラピスは幾分、ヒロをげきんきづけるよう前屈みになり、顔を近づけながらいう。

「今のところ順調よ? がんばろ? ね、ヒロ」


 ヒロはラピスの表情を見て一瞬ドキリとするものの、自分のことだし覚悟を決めていた。

「ああ、そうだな……。このまま食肉になるのは、ゴメンだからな」


 ラピスはヒロに微笑みながらいう。

「そうよ、その調子」

 

 そこでヒロは、不思議に思うことがありラピスに尋ねる。

「ところでさ、どうやってここの位置をかぎつけるんだ?」

 

 ラピスは軽く答えていた。

「すごくシンプルよ。発生する魔力の波動ね」


 ヒロは合点いったのか、手を叩き目を少し開きなるほどと連呼しながらいう。

「つまり感染者が増えれば増えるほど波動は強くなるし、強い者がいれば尚更強くなると言うわけか?」

 

 人差し指でヒロを指しながら、ウインクをしてラピスはいう。

「さすがねヒロ! その通り。特定の反応があるから次元探索で見つけやすくなるわ」


 ただそうなると、ラピスたちを送り出す時はどうしていたのか、それも気になってはいたものの、今は置いておくことにした。なぜならすでに実行されて、今ここにいるからだ。

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