第9話『うまく行き過ぎた』(1/2)
『魔法』なんて夢だ。
ごく普通に生きる人たちにとっては、もはやそれは常識だろう。
ところが、それが現実となって誰しもが手に入れられるとしたら?
そして、それが人その物を変えてしまうとしたら?
そうなるともう止まらないし、誰にも止められない。
一度知った甘美な味覚はもう、それを知らない昔には戻れない。
人は、一度知ったうまい味は忘れないし、過去には戻れない。
だからこそ『魔法』という未来を手にした者たちは、深い探究の罠にハマるだろう。
それは、より多くの魔法の深遠を探し続ける永遠に終わらない罠だ。
魔法がより生活を便利にするだけでなく、腕力や知能または仕事の遂行能力に関係なく発揮される。
だからこそ一部の者には新たな力の台頭であり新人類の誕生として、特に活気で湧いた。
ただし何を獲得するかは一種の運のような物だ。
たった一度の魔法感染の大抽選会で、通称『魔がちゃん』とも呼ばれている。
こうして人々は魔法の虜になり魔力の質を高めていくのは、セトラーたちの思惑にどっぷりと浸かったも同然だった。
そしていつしか肉体は、程よく魔力に馴染み侵食されてしまう。
牛でいうなら和牛の霜降りだろう。
まさにセトラーたちのご馳走の出来上がりだ。
否応にも関わらず、もう後戻りできない変化は大きく社会も変えていった。
ゆえにしばらくは、無政府状態を存分に味わっていくことになる。
――その頃、ヒロたちは……。
ヒロはダンジョンから出るとあたりは、すでに夜の帳が降りて月が眩い光を放つ姿を晒していた。
周りにはそれなりに人がおり、ダンジョンへ次々と進んでいく。
ちょうどヒロが出たのは、入り口とは正反対の方向に魔法陣が現れて、出現した。
近辺にいたものは驚き、ヒロは耳目を集める。
ところが全身防具の状態であっても、敵対する素振りは見せない。
それゆえに安堵したのか、遠目に見るだけで何もしてこない。
そこで場所を立ち去ると大学にある研究室へ戻る。
そのまま研究室で人の姿に戻り、ひとまず一息をつく。
あとは何食わぬ顔で研究室を出ると、家路にむかった。
こうしている間にも、秒単位で都内の様相が変わっていく気がしていた。
それというのも、おかしくなったのは互いを殺傷しても何も問われなくなり、警察の意味もなくなる。
そもそも警察すらいなくなった。
さらには他の人々は集団で何かを作り始めた。あれは電波塔なのだろうか……。
政治家たちはもはや何も役に立たず、鳴りを顰めてしまう。
今までの常識や認識が大きく変わろうとしているその瞬間に皆が皆、立ち会っていた。
一方で急に手に入れた力のためか、散発的に方々で魔法被害が多発していた。
とある誰か少年の掛け声のもと魔法が発動される。
「こ・う・え・ん・Gィ!」
それは重力魔法と思わしきもので、特定の範囲で辺り一帯を超重力で押し潰そうとしている者がいる。
どう見ても不良グループに見える連中らが地べたに這いつくばり、小太りの男が誇らしげに笑い口角をあげてニヤつく。
ヒロはそれを見てもどうすることもできず、また何をしたいとも思うこともなくただ傍観者として通り過ぎる。
ここだけの現象かと思いきや、この状態は方々で多発していた。
そこの地域だけでなく、他にも光の粒子砲の如く力を振るう者もいた。
あれも魔力なのだろうかと呆気に取られてしまう。
「あ・き・は・ば・ラァー!」
叫び声と共に眩い光の本流が、声を放つ者の掌底のように構えた手のひらから放出されている。
目先にある車両はひとたまりもなく、光が触れた先は金属だというのに蒸発してなくなっていく。
町はひどく荒れていた。
方々にて、魔法で破壊行為がされており街全体がもはや魔法を使うための『的』になっていた。と言うよりは、無料で破壊しまくれる練習場に近いかもしれない。
ここまでくると、人の行いも、心も荒んでいるとも言える。
やはり力を手にすると、人は変わってしまうのは改めて証明されたようなものだ。
武器を手にすれば当然試したくなるし、それが銃器とは別物ならイメージとは異なるのでやってみたくなる。
そう急に、架空の世界から来た物でソフトなイメージが先行する。
実際は、凶悪な力の顕現でしかないのにだ。
そして一度でも殺傷が行われてしまうと、人のタガが外れてしまい次からは抵抗がなくなってしまう。今急速にこのタガを外す行為が頻発していた。ただどういう感染の仕方なのかはわからないが、狼狽えていた人もいざ自分自身が使えることがわかると態度を急変させ、自ら魔法を酷使し始めた。
ここまで短期的に変わると、一体どうしていいかわからなくなる。
それは他の人も同じようで、狼狽えたりしている。
ただし力を手にするまでのようで、力を手にすれば同じく力を振るう側に移ってしまうようだ。
まさに『魔法は楽しいアクティビティ』と化しつつある。
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