第8話『青ノ力』(9/9)
おもむろに両腕と両手のひらを正面に向けてまっすぐに伸ばし、ゆっくりと腕を後ろに引いた際、魔力を両掌へ一斉に集めた。
しかもその勢いは全力だ。
そこで、真正面から突撃を開始する。こちらを脅威と見ていないのか、微動だにしない。そこで掌底を当てる直前に魔力を一気に解放すると途端に反応はしても、時はすでに遅そし。
魔力を全力で放つ掌底により鎧と肉が砕け散る。
この髑髏面の巨人が怯んだ隙に左手側で溜め込んだ魔力の掌底をもう一発当てた。
同様に肉も弾け飛び、臓物と思われる物が背中から爆散し、床に落とす。
物理的な攻撃と魔力攻撃のシンプルな組み合わせだ。
あとは、超振動兵器としての掌底を繰り出した。
片膝をつき、左手で剣を杖代わりにして体を支えている状態の中、左側面から回し蹴りを側頭部にあて巨人の大勢を崩す。
剣を横倒しにしてしまい、もはや攻撃などできる状態でないのをいいことに真正面から両手で頭部を掴み両手から、超振動を全力で放つ。
すると頭頂部から爆散し脳漿をぶちまけ全身で浴びてしまう。
想定より早いため、ヒロは思わず言葉を漏らす。
「思ったより早いな」
ラピスは魔力を完治したのか、ヒロへ伝える。
「ヒロ気をつけて! 魔力の波動があるわ!」
巨人はどう見ても頭部は破壊され、身体は背中を爆散させ床には臓物と血で溢れかえる中、それでも何かがあるという。
ヒロは突然拳を握り締め、突貫し出す。
突然出鱈目に、力任せに殴りつけ始めた。
ヒロ自身は驚いていた。
なぜなら、まるで息を切らせずに、いくらでも続けられそうな気がするからだ。
拳はまったく傷もつかずに相手の甲冑は拳の形に窪みができるばかりか、貫通してしまい地肌が現れてくる。
そうまるで、滅多打ちの状態が永遠に続くかと思われた。
最後に何かをしようと巨人は目論んでいたのかもしれない。それをヒロが滅多打ちにすることで、潰えてしまう。
巨人の最後の行動は、知る由もない。
言えることは倒したと言うことだ。
そこでヒロはいう。
「殲滅、完了!」
ラピスも安堵したのか、いつになく元気に答えてくれた。
「わぁ〜。ヒロ激しいね」
そうこの人の姿であっても、全身防御の状態だと膂力が人と隔絶するほどの差で上がる。だからこそ、単なる肉弾戦でも異常に強い。
相手の甲冑の損壊は酷いとも言える状態で、まるで大型車両に轢かれはねられて引きずられたような有様だ。
そのような状態であっても、胸部から光る物が見え隠れしていた。
目ざとく見つけたヒロはラピスに問う。
「あれは……」
ラピスには見慣れた物のようで即答だ。
「多分魔石よ? もらっておきましょ」
ヒロはおもむろに手で鷲掴みに取ると、むきグリほどの小さな物が光を放ち輝く。
握りこむとなぜか染み込みようにして、体の中に吸収されていく。
ヒロは自分の手のひらに握り込んでいたはずの物が合った箇所を見つめながらいう。
「相手の魔力を吸収したのか?」
するとラピスは珍しく、自信なさげに眉をハの字にして視線を向けていう。
「そうね。そうであって違うような……」
珍しいこともあるものだと思いながらヒロは尋ねた。
「どうした?」
ラピスは困惑しながらも、類推するこたえを導き出していた。
「正直まだわからないのよね……。魔人化した人が魔石を吸収すると、どうなるかなんて」
そこで今は人であるし、人の状態の場合を聞いてみた。
「人だと、どうなるんだ?」
その問いについては、すんなりとラピスは答えた。
「相手の最も強い特性を受け継ぐわ」
そうであるなら、剣に関わる物で合ってほしいと思いつつも、重複しない能力ならいくらでも吸収できるのではと思いを込めてヒロは感嘆した。
「それはすごいな……」
ラピスはすでにヒロの思いを察したかのようで答える。
「今想像した通りよ? 重複しない能力ならいくらでも得られるわ」
ヒロは念のため、想像した通りか答え合わせをしてみた。
「重複すると?」
ヒロの予想と反した答えが返ってきた。
「強い方が勝るだけよ?」
ヒロは重複したなら重ねがけのようになれば最高だと思っていたけど、違った。ただし、もう一つ別の懸念も合った。吸収したあと当然基本的な魔力も増強するはずだからだ。
「それは結果として、セトラーたちのご馳走になっていくわけか」
ラピスは過去の知見をもとに答えた。
「大正解。だから彼らがきたら、どんどんダンジョンに行かせるように仕向けてくると思うわ」
ヒロは相手の亡骸を見てぼんやりしていると、すぐ近くで魔法陣が現れた。
それは地面に描かれ、紫色の眩い光を振り撒き、魔法陣が回転していた。
ヒロはラピスに尋ねた。
「あれで戻れるのか?」
ラピスは当然という感じで答える。
「そうよ? キリもいいし戻りましょ?」
ヒロはこれ以上ここで得るものは無いと判断して立ち去ることを決めた。
「……そうだな」
ヒロは、魔法陣へ向けて歩みを進めた。
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