第8話『青ノ力』(8/9)

血肉を踏みつけヒロは先へ進んでいくと、またしても群れとなる集団がいた。


 今度現れたのは、人の顔を見るなりやけに歪んだ顔つきをする。

 表情からすると豚だろう。

 豚の顔つきを凶悪にして、人と同じく二足歩行型で筋骨隆々な集団が現れた。

 見渡す限り足元が見えないほど床を埋め尽くし、想定数百もの魔獣がまるで満員電車のごとく密着している。

 

 先の集団と異なるのは、前衛と後衛にわかれており、後衛から魔法の攻撃がいつの間にかヒロに降り注いできた。


 魔力の塊が雨のように降り注ぐ。


 ところが液体金属の防御用スーツだとこの攻撃は、まるで意に介さない。

 それどころかテレビでみたリナのように、そよ風に当たっているのと同等ぐらいの余裕さがある。

 

 しばらく降り注いだ後ぴたりと止み、今度は前衛と思われる者たちが手に各々武器を持ち、突撃をしてきた。

 ヒロは慢心していたわけでもなく、どことなく感覚で魔力の塊は問題ないと思ったのだった。実際に受けてみないとその感覚があっているか、不確かなので受けきったというところだ。


 ただ完全な勘違いで受けた際に致命傷を負うリスクは当然ある。

 だからこそ、経験による勘が働いたわけだ。

 

 ところが、どこからその経験が得られたのか……。

 

 元の魔人たちによる経験からくる物であればそれこそで、その経験がまるで違う。

 今の自身の感覚と魔人が培った経験との、答え合わせをしている感覚だ。

 そして結果として、無傷の状態で余裕そうに佇んでいると、相手側には見えたのだろう。

 前衛は後衛のための時間稼ぎなのか、彼らは必死に攻めてくるものの、何の損傷もなかった。


 そこでヒロは先と同じく、水平に手を前へ突き出すと液体金属で斬馬刀を生成し、縦横無尽に切り裂く。

 あまりにも勢いがあり、誰も止めることなどもできず、どの者も皆刻まれて肉片が飛び散り倒れていく。

 何のために前衛がいたのかわからないほど、あっけなく目の前にいた種族はすべて肉片に変わってしまった。

 

 そしてヒロはいう。

「殲滅、完了!」


 ラピスも変わらずだ。

「お疲れー! やっぱヒロいいね!」


 ヒロはこれだけの数を倒してはみても、何も変化は感じていなかった。

 一度魔人化して相当な量の魔力を消費したからか、それとも別の要因なのか、または魔力強化にはまだ全然足りていないのかそこがわからなかった。


 それに、思ったほど強い刺激がこないとも思っていた。

 魔獣の魔核を喰らうのと、人の魔核を喰らう『共食い』の両者を比較すると、魔獣を倒す方は脳にくる刺激はなぜか少ない。

 ゆえに、妙にテンションが高くなるということもなかった。

 

 そうした状況で周りは、水捌けの悪い道路で冠水するかのように、血と肉が地面の上で溢れ肉片と血生臭さが漂う。

 この異臭のする凄惨な現場はそのままにして、ヒロは先を急いだ。もちろんラピスにより魔核は回収済みだ。


 先の攻撃で殲滅したことによるものなのか、魔獣の出現が一切なくなってしまう。

 ただ歩くだけの状態で、そのまま道なりに進んでいくこと数十分。

 本来ここにあるはずのものではない扉が遠くから見えてきた。


 ヒロはラピスに尋ねてみた。

「ラピス、あの扉は?」


 おとがいに手を当てて頭を横に倒し、唸りをラピスは上げている。

「う〜ん。おかしいわ……。と言っても、事情や環境も違うからかしら?」


 どこかラピスの困惑ぶりに、不安を少しながらヒロは持つ。

「何か変か?」


 まだ思い悩むようにして、ラピスはいう。

「本来、十層にあるはずの扉なのよね……。あれは……」


 天井にまで届くと思われる金属でできたような、艶のある真っ白な見開きの扉がそこにある。意匠を凝らしたのか、人の胴体ほどの太さがある二本の石柱に挟まれる形で、扉が鎮座している。


 まるでトーテムポールのような柱には、何かの生物が掘られており、見た目はガーゴイルによく似ているように見えた。


 ラピスは真剣な眼差しで扉を見つめながらいう。

「これいくしかないかもね……」


 ヒロも雰囲気に飲まれないように、幾分緊張感を持ってラピスとともに扉を見つめる。

「いよいよ力試しというわけか……」


 ヒロは人の姿のまま扉を前方に押し込むと、非常に軽やかな動きで扉はゆっくりと開いていく。

 その視線の先にあるものは円形の競技場のようで、足元は変わらず石畳の状態だ。


 すると目の前には、白の魔人の1.5倍はありそうな背丈の魔獣が仁王立ちしている。

 顔つきは、髑髏の仮面をかぶり体は銀色の甲冑を纏い体の前で身長に近い長さを持つ大剣を床に突きして、柄に両手を重ねてまっすぐ前を向いたまま微動だにしない。


 ラピスはついに現れたボスを目の前にしていう。

「ヤツよ」


 誰がどうみてもボスにしか見えないものの、改めてヒロはラピスへ問う。

「階層ボスなのか?」


 どこか歯切れが悪そうにして、ラピスはいう。

「ええ……」


 そこで入る時とは違い、あまりにも歯切れの悪い姿に疑問を覚え確認をした。

「どうした? 何か問題でもあるのか?」


 ラピスはその不安の要因をぶちまけた。

「問題ありありよ? なぜって? あの甲冑見た目は装飾もされて豪華だけど、魔力耐性があり魔力防御特化防具よ?」


 そこでヒロは、これまで利用していた液体金属が魔力属性で一種の魔法だと理解した。

「まさか、俺の液体金属は……」


 ラピスはその通りと言わんばかりの表情をしつつも、真剣な表情は変えずに厳しい視線をボスに向けていた。

「さすがね、大正解よ。0でないことは確かなんだけどね」


 やる以外に道が残されていないと思い、ヒロは覚悟を決めた。

「やるか……」


 普段は慎重そうなヒロなのに以外と大胆なことをするとラピスは思い言う。

「え? 本気?」


 ヒロはニヤリとして答えた。

「ああ、マジの大マジな」


 ため息をつきながら、仕方ないないねと肩をすくめるような仕草をしていう。

「いうと思った」


 ヒロは中に足を踏み入れ両足がつくと、扉はゆっくりと自動的に締まり背後で施錠までされる音が響く。

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