第8話『青ノ力』(1/9)
蒸し暑さの感じる7月。
今日も研究室に通い調べ物と検証結果を確認したのち、陽の高い12時頃に研究室を出ようとした時だ。
楽しそうに下品に笑いながら、唐突にヒロを煽るようにしてラピスはいう。
「ねね、ぶちゅ〜っとやってみて、ぶちゅ〜っとね。イヒヒヒ」
どうやって作り出したのか、ヒロの心臓の真上ぐらいの空間から注射器が飛び出してくると、それを手に取って腕にさせとラピスはいう。
ヒロはこの得体の知れない親指の二周りほどの太さを持つ注射器を手に取り、躊躇していた。自分でなんぞもちろん刺したこともないのに、どうやれというのだろうか。そこでヒロはラピスが本気で言っているのか確認をしてみる。
「マジ? 大マジ?」
ラピスは平然とヒロにいう。
「そそマジよ? そんでもって大マジね?」
仕方ないとヒロはラピスのいうことだし、安全だろうと覚悟を決めるようにいう。
「わかったよ。どの程度までどこに刺せばいいんだ?」
ラピスはちょっとドリンク飲もうというぐらいの気軽さでいう。
「針先1センチぐらい入ればどこでも十分よ? 血管とか意識しなくても、勝手にそこに行くわ。ささ、ぶちゅ〜っとね」
あまりにも気軽過ぎる誘いにため息交じりにいう。
「はあ……。やるだけやってみるさ」
ラピスはやけに楽しめそうだ。
「あたしがおまじないをしてあげる! ララピス・ラピス、ララピス・ラピス。うまぁ〜く、はいれぇー!」
ヒロは思い切って刺してみると痛くなく、むしろ感覚がないとまでいえる。
不思議に思いつつも、中に入っている銀色に煌めく液体を注射器の後部を押し、最後まで押入れる。
体内に入ると全身が暑いような、血管の内側に流れる血液が熱いような、ヒロは不思議な感覚にとらわれる。
「な、なんだ? 熱い?」
体内にすべて入り切ると、血管の中を熱湯が流れ入るようで全身は茹だるほど、熱く感じていた。
やや苦しくもあり、少し身悶えしていると数十分ほどで落ち着いてくる。
鷹揚にラピスはうなずくと、満足そうな表情を浮かべながらいう。
「うん、うん。どうやらうまくいった見たいね」
痛みではなく、体内で熱湯を流された感覚がいまだ尾をひき、辛そうな表情を隠し切れないままヒロはいう。
「一体……。何を……作ったんだ?」
何でもなかったかのようにラピスはいう。
「金剛ワクチンよ?」
ヒロはこの体内に入れた物がどう作用するのか気になって仕方がなかった。
「名前の通り硬くするのか?」
ラピスは、おとがいに手を当てて考える素振りをみせながらいう。
「そうね。意識すれば銃弾ですら、なんてことない体にするための物よ」
なんかラピスは物騒なことを言いつつも、自身がすでに『共食い』をしている物騒な存在であることは忘れてはいない。
ヒロはそう思っていると、不意に何か魔人という存在に対して、何処か『わかる』感覚が芽生えてくる。
ありのまま感じ取る内容をラピスへ告げた。
「なんか、さっきから……。4色の魔人だとわかる何かを感じるな……」
ラピスはそうなることを予見していたかのようにいう。
「え? やっぱりそう?」
予想していたことなら、これが何かわかるかと思いヒロはラピスに尋ねる。
「何か心当たりでもあるのか?」
ラピスの口っぷりは、まるで今実験していますといいたげな内容だ。
「うん。魔人種の遺伝子配列を真似てみたの。再現を目指したんだけどね」
少し目眩がしそうな気にヒロはなる。なぜなら、自身の体にぶっつけ本番の人体実験をされたからだ。心配になりつつもラピスへ現状を伝える。
「……そんな物入れて大丈夫なのか? ん? 白・黒・赤・青の四種がいると感覚的にわかるぞ……」
ラピスは興味深そうにして、無責任にいう。
「どうなるのかな……? ねね、どれかに変身とかできる?」
ヒロの感覚では、白だけは受け入れてくれたという不思議な感覚があった。
「白が何処か……。今は、できそう……な」
ラピスはもはや興味津々と言ったところだ。
「ねね、やってみよ?」
ヒロには突然、全てを知っていて今までそうであったかのような、なんともいえない感覚を得た。
「そんな簡単には……。ん? これは……」
ラピスはもはや、興味だけしかなく目を輝かせていう。
「何か見つかった?」
ヒロは脳裏に閃く言葉のままにいう。
「雪白(せつびゃく)のヴァイス!」
この時ヒロは奇妙な感覚に包まれていた。
柔らかく優しくも温かい光に包まれたかと思うと、全身をウエットスーツを着込んだような感覚に陥る。それと同時に、何かが覆い被さる感覚を経ると全身白い姿になっていた。
それは、ガラスに映る自身を見ると背丈は倍以上になり、全身装甲に覆われた白い魔人と化してしまう。
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