第8話『青ノ力』(2/9)

 体が倍以上になったのに、不思議と軽く空でも飛べそうな感覚をヒロは感じていた。

 この姿になったと同時に、他の魔人化で何ができるか感覚的に理解してしまう。

 

 雪白(せつびゃく)であるヴァイスは光の弾を放てて、漆黒のシュヴァルツは任意の部位をミイラ化させ、真紅のロートは昔ながらの大剣を使い、青碧のブラウは肉弾戦と衝撃派で全てを破壊する。

 そしてすべての魔人の頂点にいる黄金の魔人、金華のゴルトが謎のままだ。

 わかったとはいえ、それになれるかはまた話は別だ。

 何をトリガーにしているのかわからず、今は雪白のヴァイスだけ成れる状態だ。

 一つだけ言えるのは、これが魔力なのかとわかるほど体内に駆け巡る魔力を感じ取れ、感覚は鋭利になったことだ。

 

 ラピスは何か目論むかのようにヒロを誘う。

「ねねヒロ。この状態ならダンジョン召喚ができるから、やってみない?」


 わけがわからないという感じでヒロはラピスへいう。

「俺が召喚するのか?」


 すべてわかっていると言わんばかりの態度でラピスはいった。

「うん。手順は伝えるわ」


 自身の手や足を持ち上げて、眺めながらいう。

「この姿だとかなり目立つぞ?」


 ラピスは可能性を示唆した。

「目立つほどいいわ。力の可能性を示せるもの」


 可能性を誰に何のために示すのかよくわからず目先のリスクに身を向けてヒロはいう。

「そういう物か? 危険分子として排除対象にされないか?」


 ラピスはヒロへ諭すようにして伝えた。

「もう、ヒロは……心配性ね。今の政府や軍なら無理と言えるし、リナとゴダードならわかってくれるわ」

 

 そこでようやくヒロは、ラピスに言われるまま研究室を出ると渡り廊下の窓を破り、外へと飛び出した。

 

 するとふと見た大学の建物の窓に自身が映らない。

 脳裏に閃くのは、どうやら光学迷彩を魔人は標準で持つようだ。

 

 周りに見えないのは好都合だ。そのまま道路の中央を歩きながら目的地を目指す。

 その場所は、国会議事堂だった。


 ――30分後。


 ヒロは国会議事堂の正門前に着地すると周りを見渡す。

「ついたぞ? なんだか周りが騒がしいな……」


 全高五メートルほどの白い魔人が真昼間に堂々と現れたのだ。

 どうしたって耳目を集める。

 いつの間にか光学迷彩が解けていたのは、何となく意識的に解除してみたからだ。

 特別に理由はなく、何となくでしかない。

 

 わらわらと人が集まってくる中、ラピスはヒロにいう。

「このダンジョンの種子を適当な場所に放り投げればあとは勝手に増殖してくれるわ」


 周りを気にせず、ヒロはラピスと会話をつづけた。

「どの程度の時間でできるんだ?」


 ラピスはウインクをしながら答えた。

「そうね……。ひとまず二十四時間で50層ぐらいは突き進むわ」


 ヒロは想像したより早く、また現代の科学技術ですらそれはできないことを考え、この未知なる力に非常に高い感心をしめした。

「随分と……早いな」


 ラピスはダンジョンの今後の成長について説明をした。

「最初は階層を拡張して、百層あたりから自主制に任せる仕組みよ?」


 ヒロはどこか納得したのか、理解をして答えた。

「なるほどな。まさに生きた場所というわけか」


 ラピスはさらに補足してより理解を深めてもらえるよう説明に努めた。

「そそ、魔力の原資は最初の種子以降は、周囲の魔力を常に吸い取り増殖するイメージよ」


 するとラピスは注射器の時と同様に、胸下で種子をどこからか別の空間から取り出しヒロに種子を握らせる。


 ヒロは両手で包み込むようにして、力を込めた。

「こうやって魔力を込めるのか?」


 包み込んだ手を覗き込むようにしてラピスはいう。

「ええ、そうよ。よく言われなくても、わかったのね?」


 両手のひらで包み込み魔力を当てながらヒロはいう。

「魔人だと強く魔力を放出できるからな。『この状態だとできる』とラピスがいったことはこのことかなと思ってさ」


 ラピスは嬉しそうに頷きながらいう。

「ヒロその通りよ。素敵すぎる」

 

 ヒロはある程度ここまでという主観で種に魔力を込めたのち、おもむろに、国会議事堂の入り口付近に向けて投擲に近い形で投げる。

 すると着地と同時に種からは根が生え出し、地面に突き刺さるような形で侵食し始めたように見えた。


 ヒロはラピスへ確認をした。

「これでいいのか?」


 変わらずラピスは気楽そうにヒロへ伝えた。

「うん。大丈夫よ? 明日適当な時間にきてみましょ。多分ぽっかりと口を開けているわ」


 そこでヒロは気になることを聞いてみた。

「いわゆる魔獣とかいるのか?」


 ラピスはいまいち自信ん下げに応える。

「今は多分いるとしかいえないわ」

 

 ヒロはこれで魔獣狩りにより、共食いをせずに済みそうだと内心安堵していた。

 それが本当にそうなのか、『東京ダンジョン』に潜入して確かめる必要がある。

 明日確認することをラピスと話をして再び光学迷彩を使い皆の視界から消えると、この場を去った。

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