第6話『俺自身の証明』(2/2)
今最大の理解者と言える存在は、幸いなことに二人の代わりに入れ替わるかのように一人みつかった。
――それが妖艶な美少女であるラピスだった。
理解してくれているとはいえ、まだそこまで理解者かはわからない。
常に肯定的に接してくれているのは事実だった。
それもあってヒロは、いつの間にかラピスがいる時は気持ち的にも安定している。
ただし『共食い』となると、別人になり変わってしまう。
そのような状況下で多少自身の心が揺れ動きつつも、ラピスによってうまく落ち着いていたともいえた。
また、ヒロの『共食い』の心配を吹き飛ばすほど、世の中は揺れていた。
連日のニュースや周囲の環境を見る限り、政府どころか軍も警察ですら手をこまねている状態といえた。
当初は散発的に被害が起きどうにかして押さえ込まれ、捕まる者が多くいた。
未知なる『魔法』という物に対して、人は無力すぎるのと同時に捕まえてもその『魔法」で脱出されるという残念な状態を繰り返し、司法機関はまるで学習できていない。
さらには、指数関数的に魔法を使える者が増えるにつれて、力を行使する者が増えていき事件や事故もそれに比例して増えていく。
それは、無軌道に振る舞う者が増えるのと同じだった
もうこうなると、国が本腰を上げて対応が必要になるはずだ。
それなのに、国の中枢ですら魔法を行使し、収拾がつかない状態へ陥る。
それは軍だけでなく警察も同じで、一部の良識ある者の組織には、魔法を行使できる者を保護するために、より多くの人が集まり組織は巨大化していく。
リナの魔法教団『ファントム・ヴェルト』とゴダードの魔法王国を意味する『ロワイヤル・マジック』この二大巨頭が存在感を増してきており、それ以外は無数の小さな組織が増え続けていた。
――魔法の力と魅力。
皆誰しもが魔法に強い興味を抱き、憧れを持ち可能性の塊でもあった。
だからこそ行使できた日には、我先にと試しに使ってしまう。
その結果、魔力の魅力により深く陥ってしまう。
魔法を扱える者は誰一人として、魔法の魅力を否定しない。
むしろ大歓迎で、世紀の発見とすら思っている節がある。
こうなると、次々と使えるなら使いたし、常に使っている状態が続いている。
さらに魔法の原資は魔力であり、その魔力を強化するのはダンジョンで魔獣を狩るか、『共食い』で人から奪うかのどちらかの方法しかない。
魔力自体は個人差はあれど自然にも回復するし、魔核を接種した時にも回復する。
もはや無政府状態に近くとも、各組織が牽制していたためか、無法地帯にはならずに住んでいた。
ただ『共食い』についてはどの組織も黙認をしているのか、起きても動かない。
それもあってヒロが暴走気味に『共食い』をしても、誰からも咎められることなく、裏では要注意人物として見られていた。
ヒロの『共食い』時は、人格が豹変し好戦的になり、ほとんど戦闘状態だ。
ラピスの作ったナノマシンにより、液体金属での武具や超振動兵器の活用で、時には魔法以上の圧倒的な力を見せつけていたからだ。
周りからすると、魔法なのかそうでないのかはともかく、得体の知れない人物と目されていた。
ただし全身を覆う防具のため、素性が知られていないのは幸いに尽きる。
そのような日常を送る中で、なぜヒロは迷った末に『共食い』をするという決断を下したのか。それは、極めてシンプルな動機だった。
『生き残りたい』
それはヒロの生き抜くことへの渇望であった。
誰しももっていて当たり前ではあるけども、より強く突出していると言っていい。
劣等感の裏返しかのようで、異常なほど執着しておりその思いは強い。
さらに、『自分は誰かに比べて劣る』ことは克服したいし、誰からにも認められたいともヒロは考えていた。
自分は特別なんだと証明したい気持ちも、『劣る』と思う以上にヒロは持っていた。
当然ながら、力がなければ打破することも、脱出することも叶わない。
まるで諦めた方のようにしてセトラーどもに食われるなんて、まっぴらごめんだとヒロは強く思い、その結果、行き着いたのがその答えだった。
ヒロはその答えをあらためて決意のようにいう。
「ならば……やるしかない」
ヒロの中でシンプルなようであって複雑な感情が交差する中、ラピスの後押しもあり動き出すことを決断した。
数々の助言もあり次第にヒロの中で、ただ喋るウイルスとしてのラピスの存在が大きくなりつつあった。
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