暴走していく世界の中で 6

 一華が身に纏っているアーマーは死神とセーラー服を組み合わせたようなデザインをしており、両腕には死神の鎌をしっかりと握りしめ俺に向かって振り回すが、それをヴァイスは右肩のアーマーで防いでから一華の装甲をはぎ落そうと試みる。

 しかし、今までの奴等より装甲が熱く設定されているのか、びくともしない状態に驚きを隠せない真。

 教頭はニヤリと微笑ながら真をジッと見る。


「今までの奴は遠距離で操っているから基本装甲も甘く操作性も酷いが、この距離なら私が直接操れるんだよ」

「そうですか。一華を勝手に操るな」

「弱者は強い強者に従うのが世の常だろう?」

「アンタはいつの時代の人間ですか? 弱者を虐げる自称強者がしゃしゃり出るなよ」


 そう言いながら真はヴァイスを一気に走らせて一華を足払いしつつ頭部を強めに掴む。

 しかし剝がれないと分かると真は少々強めに叩いて装甲を攻撃する。

 頑丈なうえ念の為にと中にいる人間を考慮している装甲、これでもダメージとしてはゼロであった。

 驚くようなそぶりを見せない真、ヴァイスを静かに移動させてミサイルを作って教頭めがけて飛ばすと、それを一華が身を盾にしてかばう。


「酷い少年だ。彼女の命が大事ではないのかな?」

「そう思うのなら盾に使うのは止めたらどうだ? 教職員の名が泣くぞ。そっか…なりたくて成ったわけじゃないんだっけ?」

「君は人の神経を逆なですることが得意な人間だったな」

「さっさと諦めればいいのにさ…下らないんだよ」


 真はヴァイスを走らせてから一華を乗り越えようとするが、一華は死神の鎌を使ってヴァイスの行動を妨害しつつ吹っ飛ばす。

 ヴァイスは身を素早く起こしつつ真はしっかりと一華を捉える。

 一華は身を翻して一気に接近してくるとヴァイスに死神の鎌を振り下ろすのだが、誠はヴァイスの左肩のアーマーに隠している砲台から拡散弾を使って一華を吹っ飛ばす。

 これでもダメージが薄いが、同時に確信したことが真にはある。

 この機体にはアーマー事態に隠しHPケージが設定されており、それを教頭は気が付いていない。


(自動再生機能は無いようだけど…それでも念の為に幾つか気を付けながら戦うしかない。口に出せば教頭に気づかれるかもしれない。ヴァイスも気が付いているだろうが、教頭にバレないようにシステムに侵入は出来ないだろうな)


 ヴァイスを走らせて取り出した剣で一華へと攻撃しようとし、一華は鎌で振り下ろされる攻撃を防ぎきる。

 しかし、同時に真はヴァイスを操って一華を蹴っ飛ばす。

 大勢が大きく崩れる一華に剣による振り下ろし攻撃をお見舞いするが、装甲が微かに火花を散らした。

 確実にHPを削っているが、装甲が他のタイプ以上に強く設定されている。


(硬いな。防御力とHPを削るのに結構苦労しそうだ…だが…)


 立ち位置を気を付けないといけないのは真も一緒で、一華に抜かれるわけにはいかない。

 だから、教頭を襲うときも距離感的には自分が有利な立ち位置で行うようにしている。

 もう一本剣を取り出して二刀流モードに移行しつつ近接攻撃に戦い方を切り替えてから一華に接近していく。

 一華の方は鎌という使い難い武器故に戦い方がどうしても限られてしまうが、教頭は鎌による攻撃では撃破が難しいと判断し鎌を容赦なく投げつけてきた。

 ヴァイスはジャンプで攻撃を避けつつ無防備になった一華へと切りかかるが、一華はスカートの中から機関銃を取り出してから引き金を引く。


「おい。死神じゃないのか?」

「殺せばいいんだよ。それに可愛い女の子が機関銃を持って襲ってくるんだ嬉しいだろう?」

「斬新な考え方だな」


 ヴァイスを一旦下がらせつつ真自身も柱の陰に身を隠すのだが、一華はそれを待っていたかのように機関銃を取り外して真の隠れている柱の陰へと急ぐ。

 そして、ナイフをスカートの中から取り出して真へと襲い掛かるが、コントロール権限が真から素早くヴァイスへと変更したことでヴァイスは一華へと攻撃を仕掛けることに成功する。

 ナイフが微かに真の右頬を掠め、一華の身が壁に激突する。

 真の近くまでやってきたその時、真はずっと考えていたことを口に出した。


「一華…好きだ。ずっと好きだったんだ。だから…お前に対して素直になれなかった。初めてお前が僕にゲームを教えてくれた時、僕を見てくれない親に失望していた時、お前が初めて好きになった」

「………」

「何でもできるとお前は僕を信じているのかもしれないけれど、お前だけは僕が何でも出来る範疇から外れているんだ。お前が死ぬのなら僕の人生は其処までで良い」

「おい! どうした!? なんでコントロールできない!? 何が起きた!?」

「人の意志は簡単にはコントロールできないって事さ。簡単なことで崩壊するんだよ」

「はぁ!? 簡単にコントロールできるからこそこの記憶粒子にはテロとしての可能性があるんだ」

「そんな簡単な事なら誰もが思いついて実行しているんだよ…僕はどうしても不思議だったんだ。どうして他の連合国がこんなバカげた計画に参加したのか、でも分かった。教えておいてやるよ。助けは来ないと思うぞ」

「!? ど、どういう意味だ!?」

「失敗することが前提だったのなら参加した理由も分かるよ。記憶粒子を使ったテロがどんな形で阻止されるのか確かめたかった。そうすれば本格的なテロに使う際に敵の動きが良く分かる」

「し、失敗が前提な計画だと!? ふざけるな! そんなわけないだろう!?」

「ウイルスチップを使って人体をコントロールし記憶粒子の暴走を使って本格的な兵士としての運用方法を確かめる。お前を回収しなくても出来るし、わざわざこんな所にまで、しかもテロのど真ん中に助けに来る? 普通に考えれば関与を直接示す証拠を残すわけが無いだろう!」

『その通りだろう。今このあたりの監視カメラが何処かと繋がっているのが分かった。本格的に探るには時間が無いから諦めるしかないが、見られているのは間違いがない。この男はテロとして有効価値を見出されただけ。誰もこの男には「その程度の価値」しかないと見たのだろう」


 ヴァイスは一華にワクチンを注入してから真と一緒に教頭へと近づいていく。

 教頭はヘナヘナと力なくその場に座り込み真に対して「ま、待ってくれ」と命乞いを始めた。

 それでも今更真は歩みを止めるつもりはなく、教頭の目の前までやってくる。


「こんなバカみたいなテロを起こしたんだ…まさか許してくれると思っていたわけじゃないだろう?」

「り、利用されたんだ」

「だから? そもそもお前が原因だろうが!!!」


 教頭は怯えた様子でズルズルと体を引きずりながら逃げていくが、その内壁に衝突して逃げられなくなる。

 真は左手で京都の胸倉を強めに掴んで引っ張り上げ、右拳を強く握りしめて鬼のような形相で教頭を睨みつけた。


「一華をこんな目に遭わせたんだ…覚悟できているんだよな!!! 歯を食いしばれ!!」


 力一杯殴りつけて教頭の体は後ろの壁にぶつかり合い、そしてそのまま教頭の鼻っ面に向かって全力で殴りつけた。

 下へと落ちていく教頭に向かって再び殴ろうとするのをヴァイスが止めた。


『これ以上は止した方が良い。右腕から血が流れている。傷が酷くなるぞ』

「……一華は?」

『生きている。今の所は。進行度は其処まで酷いわけじゃないから命に別状は無いだろう。それよりワクチンをアクセス元から注入した方が良いぞ』


 真は教頭を軽めに拘束してから奥の教頭室へと向かって歩いていき、パソコンに自分のAR・アーマーズを繋げる。

 ヴァイスは内部へと侵入してワクチンプログラムを注入、同じタイミングで沙喜が気が付きワクチンを全ての暴走している人間に注入する。

 暴れ続けていた人達は皆その場に座り込むように静かになっていく。

 真はARアーマーズを抜いてから一華の元へと急ぐ。

 鼻から血を流している一華を背負ってその場を後にする真、もう教頭に興味なんて存在しなかった。

 今はとにかく早く一華を病院へと連れて行くことが優先だった。

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