暴走していく世界の中で 4
二十人に及ぶ暴走者を鎮圧することに成功し、俺達はそのまま一気に海谷家のグループビルへと入り込むことになった。
出入口は完全にバリケードが設置されており、直接は入れないので俺達別の建物から地下を通って中へと入っていく。
これは元々避難用に作られている非常口の一つらしく、事前に理亜から聞かされていた進入路でもある。
地下は地下でまた複数の暴走個体が徘徊しており、何人かが入ってこないようにと戦っているところに俺達が駆け付けた。
俺は鉄パイプを持っている男性に襲い掛かっている暴走個体の首を掴んでそのまま地面に叩きつけ、そのまま装甲が外れた所にワクチンを注入して落ち着かせる。
残りの暴走個体も警察が鎮圧してからワクチンを注入して暴走を一旦落ち着かせた。
奥へと案内されてから俺達は先生と合流することになったが、海谷家のグループビルの中は安全な生徒があちらこちらで身を寄せ合って助け合っている。
「先生! 大丈夫?」
「ああ。だが、外はどこもかしこも暴走している生徒や教師だらけさ。安全な生徒や教師も一部はここに集めたのは良いが…しかし、この状態だ。アクセス元を探るためのタワーまでも大変だろうな」
「沙喜です。タワーの詳細を教えてください。詳細なルートを」
「警察だ。同じく教えてほしい」
「うむ。タワーは此処から一キロほど北にある建物にある。そこの玄関から外に出て北に見える塔のような建物がそれだよ。出入口は四つ。どこから入っても同じだ」
「タワーからは記憶粒子を落ち着かせることが出来ないのだったな? タワーに行けばアクセス元を特定できると?」
「ああ。そこからは真君がアクセス元へと急ぎアクセス元からワクチンを注入する。するとタワーの方から記憶粒子を使って各暴走個体にワクチンを注入することが出来るはずだ」
「ならタワーへと向かった後、僕はヴァイスと共にアクセス元へと急げばいいんだよね?」
「ああ。それで鎮圧できる。問題なのは真がアクセス元に移動してワクチンを注入しているまでタワーで沙喜という少女が待たないといけないことだ」
「それは警察と軍で守って見せるが、彼が居ないという事は暴走個体を落ち着かせることは出来ないという事だな?」
「そうです。僕が居ないわけですから。僕がアクセス元へと急いでいる間守っていて下さい」
絶対にこの事件を落ち着かせてみせると心に誓う真に沙希はそっと近づいてくる。
「ここまで来る過程で一華を見なかった。という事は一華は別の所に居るという事になるわ」
「ああ。最悪アクセス元に居るかもしれない」
「もう私がどうにかできる範囲を超えているから手出しをしないし、貴方の結論を阻止は出来ないわ。だから…せめて後悔しない選択肢を選びなさい」
真は「ああ」としか答えることはできなかった。
後悔しない選択肢という事ならもうすでに後悔ばかりを選んで生きてきたはずだし、それこそ今更なんだと思っている。
今まで後悔しない選択肢を探す方が大変だったと言わざる負えない真。
一華とは喧嘩ばかりしていて、自分の本心を相手に伝える余裕すら存在しない。
何か問題が起きれば一華をのけ者にして立ち向かうばかり、もしかしたらそれこそ一華が自分に抱いている不満ではと想像する真。
再び地下から外へと出ていきタワーのある北の建物へと急いで移動すると、デイ入り口は窪みになっている坂の下にあり、そこは暴走個体が十を超える数で守っている。
警察や軍と共に正面から突っ込んでいき、暴走個体を鎮圧した後で、沙喜はタワーにアクセス。
キーボードを強い力で叩きながら画面にかぶりつく。
その間警察や軍はバリケードになりそうなもので出入口をふさいでいく。
「やっぱりアクセス元からすごい勢いで防衛プログラムを走らせているみたいね」
「回線切られないわけ?」
『それをすればタワーの暴走を鎮圧するこちになるからやらないと思うぞ。タワーから逃げるだけの余裕があるのならともかく。三つ全ての出入り口全部が封鎖されている状態で逃げるのは無謀だろう』
「ええ。ならヘリか何かで逃げるしかない。ある程度時間を稼いだ所で記憶粒子の暴走を鎮圧させてヘリで脱出という感じかしら。ならアクセス元はやっぱりヘリポートのある第一校舎でしょうね。やっぱり」
目の前にある大きな画面には学校で一番大きな校舎である第一校舎が映し出されており、真は身を翻してバリケードが完全に張られる前に外へと出ていった。
タワーから出ていきそのま第一校舎が見える一本道まで出てくると、うっすらとだが第一校舎の丁度最上階近くに誰かが居るような気がする。
「ここまでの全ての暴走個体に一華はいなかった。ならやはり可能性は…」
『そういう事だな。お前が来ると分かっていればあそこに配置する。まあこれは予想だがな』
「なあ…ヴァイス。暴走個体は最後には死ぬ可能性ってどのくらいある?」
『………万が一ぐらいかな。まあ、推測ならだが。だが、万が一の可能性では確かに存在している。ワクチンで鎮圧する際に脳細胞の一部が焼き切れるわけだからな』
「焼き切れる…それってどのぐらいのレベル?」
『人による。彼女ならまず死ぬことは無いだろう。ただ何年も使っていると浸食場所は酷いものになる』
第一校舎へと向かって急ぎながら真はどうしても気になっていたことを聞いてみることにした。
大切な人を死なせてしまうかもしれないという現実がどうしてもチラついてしまう。
第一校舎前まで辿り着いてから直ぐにエレベーターのスイッチを押すと、上からエレベーターが降りてくる。
無論そこから暴走個体が出ることを想定し、俺はヴァイスを呼び出して待機させると、案の定中から三人ほど暴走個体が現れた。
先ほどまでと同じように鎮圧してからエレベーターの中へと入っていく。
「確か最上階の一階手前だったよな?」
『そのはずだ。しかし、やはり教頭なようだな。沙喜が調べた場所は明らかにその場所だった』
「どんな理由があるのかは知らないが…一華を巻き込んでただで済むと思うなよ」
『頭に血を巡らせるなよ? 冷静になれ…。じゃないと負けるぞ』
「分かっているさ。分かっているけど…」
『ビビアンとリアンに立ち向かうときのあいつのようだな。あの第四次世界大戦へと発展しかけた事件。ビビアンや私達を作ったあの実験は百人の被検体の子供達を使った最高の人工知能を開発するという実験だったんだ』
「それって先生がやったやつ?」
『それより数割増しで酷い。何せ作っているのは人を殺す人工知能開発だったからな。負の感情を心だけじゃない肉体にも刻みつけて作り出される人工知能を求めてきた。その過程は酷いものだった。また一人。また一人で子供たちは死んでいき残ったのは四人のみ。そして、完成された人工知能の一つとその被検体である『リアン』は『愛』が非常に深い女性だった』
「なら問題は…」
『愛は時に深い憎しみになる。彼女は連れてこられた子供達を誰よりも愛していたんだ。最高の人工知能は最悪のデータ兵器と化した。リアンとビビアンは無限に広がりつつあるインターネットを使って人と人の信頼関係を崩したわけだ。最初は些細な切っ掛け。それは爆発的に人から信頼を奪うには十分な起爆剤だった。もとより人と人の繋がりがインターネットによって薄くなっていた時代だ。人と会うことが怖いと言い切れる時代。人との距離感が今以上に曖昧な時代だ。些細な切っ掛けでそれは崩壊した』
「…今では考えられないことだな」
『国も国通しの繋がりが壊れていき、兵器も次第にデジタルなものばかりになっていた時代、外からクラックを受けた兵器達の一部が暴走して各国の都市を攻撃し始めた。言い訳など聞かない。死者が出ているのだ。そうして戦争一歩手前まで追い詰められた時、お前の祖父は私と共にビビアンとリアンを殺すと決めたのだ。自分達を愛してくれている人と人工知能を殺すと…そして、殺したのだ。三人は自らの手でリアンを殺し、ビビアンをアンインストールして事態は収束した。三人は私達人工知能と話し合い、私達は自らを封印、その後彼らは事の真実を各国のトップに通達して真実を封じることにした。リアンとビビアンという人と人工知能は始めっから存在しないものとして扱われることになった。その後一時期兵器開発産業はアナログ式が流行る結果になった。それが未だに軍がアナログ式の兵器を持っている理由だ』
今明かされる真実を前に真は黙っていることしかできなかった。
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