暴走していく世界の中で 3
沙喜がいの一番に学校の第一正門までまで辿り着き、辺りを見回していると無数の野次馬とそれを抑える警察と軍が封鎖状態にしている。
沙喜は一人の警察官の前に立ち「海谷家の関係者です」と言うと奥へと消えていき、戻ってくるときには「どうぞ」と中へと案内された。
すると奥から私服の刑事が一名姿を現れ警察手帳を見せながら自己紹介をしてくれた。
「捜査一課の片多岐だ。海谷家からの説明ではイマイチ理解できなかった。詳細を知っているなら教えてほしい」
「これは記憶粒子の暴走という現象です。記憶粒子を使うあらゆる機器を遠隔操作で暴走させることが出来ます。ですから中には入らないでください」
「人体への影響は? これを吸ったら問題は怒るのか?」
「いくら記憶粒子を暴走させても元々人体に問題の無い物質です。直接吸っても問題はありませんが、ウイルスチップを少しでも使った人間は脳内にバックドアが仕掛けられている為、暴走の影響を受けて暴れだします。もう暴徒とした人間を複数名確保したのでは?」
「ああ。凄い力で抵抗されたよ。なるほど…どうすれば落ち着ける?」
「今こちらに向かっている海谷真が持っているヴァイスと共に私がシステム中枢へと向かい一旦範囲拡大とアクセス元を特定します。その後アクセス元を真が制圧しますので、それで解決です。その後は警察と軍に制圧を任せる形になります」
「学生に任せるわけには…」
「どのみちこの事件を解決できるのは真の持つ人工知能であるヴァイスだけです。真以外に扱える人間はいません」
捜査一課の片多岐はいまいち納得が出来ないという顔をしているが、そこに軍関係者がやってきた。
「海谷家から派遣された沙喜という女子生徒だな。貴殿が解決できると聞いている。まだ海谷家の人間は到着していないのか?」
「もうじき到着するのでは無いでしょうか? こっちには向かっているはずです。噂をすれば…」
一台の車が警備員と警察の案内で校門前まで辿り着き、中から真と理亜が降りてきて理亜は車を警備員に任せた。
理亜は沙喜達に深々と頭を下げつつ「遅くなりました」と会話に入ってくる。
「こちら海谷家の真様です。今事件の解決に全面協力させていただきます。中の様子を分かる限りで説明してください」
「ああ。海谷家のグループビルが唯一安全圏という事もあり今そこに一般人が集まっている状態だ」
「それは僕が持っているヴァイスがあらかじめ安全弁として仕掛けていたものだ。あのビルだけが安全なんだ」
「その通りです。ですが、影響がないというだけで多分その外にいる人達がいるはずです。今からヴァイスが皆さんを軽く調べます。自前のARアーマーズを出してください」
沙喜の言葉通りに軍や警察関係者がARアーマーズを取り出して真に見せると、真もARアーマーズを取り出す。
ヴァイスが一瞬だけゲーム画面に映り、赤外線センサーを通じて全ての機器を瞬時に調べてしまう。
結果からすれば全ての機器で問題はなかったという結果に終わり、改めて装備を整え直してから突入することになり、軍が電子機器を多少なり含めた兵器は使えないという事もあり、軍の倉庫に置いてあった旧式装備を取り出してから突入することになった。
「暴徒は抑えて拘束してください。記憶粒子の暴走が終われた自然と元に戻れるはずです。どんな副作用があるか分かりませんけど」
「了解だ」
『真。記憶粒子を使った戦闘を実行したい。許可を求める』
「? どんな戦闘方法?」
『見ればわかる』
「説明になってないけど? まあ良いけど。でも記憶粒子の暴走状態で出来るわけ?」
『むしろこの状況でなければ出来ない。無論お前にも戦ってもらう』
真は意味の分からない話に疑問顔をするが、ここは信用しようと覚悟を決めてARアーマーズを取り出す。
軍の準備が終わったと報告を受け沙喜を含めて中へと入っていくと、ヴァイスは人と同一サイズの機体を記憶粒子を使って作り出す。
流石に驚く一堂に対し沙喜だけは比較的冷静だったりする。
「え? 何それ? そんなことできるの?」
『できる。これなら私を使って制圧できるぞ。無論これは敵も使っているパターンの一つだ。だが遠距離では制度が落ちるだろうからお前でも制圧できる』
「まあ良いけどさ…」
すると、軍と警察の前に沢山のロボットが群れとなって表れた。
大きさは人と同じサイズで遠目で見ても迫力があるが、こればかりは警察や軍でも身に覚えがない光景なのか動揺が広がっている。
「こ、これは!?」
「記憶粒子を体全体に纏って鎧にしているんですよ。遠距離で操作すると精密性は落ちますから、それをカバーする上での対処だと思います」
「沙喜様。これはどの程度の硬さを有しているのでしょう? 重火器で攻撃しても問題は無いのであればこのまま突破をお勧めしますが」
「問題はありません。むしろ実際のロボットと同じレベルでの硬さを有していますから、むしろ全力で相手をした方が良いかと。ある程度鎧を外したらヴァイスが無力化できるはず」
『可能だ。そのためにも鎧が邪魔だ。あれは外情報を遮断している。鎧を外したら言った欲しい』
軍や警察は銃を構えなおし一人の軍人がスタングレネードを放り投げてから先頭に入った。
アサルトライフルの攻撃音と拳銃の発砲音にイマイチ聞きなれない感じを覚えた真と沙喜、内心「古臭い音だな」とは思うが、沙喜はともかく真の方は素早く意識を切り替えて機体を走らせる。
目の前から振り下ろされる剣による斬撃攻撃を半歩下がる形で回避、そのまま胴体を斜めに切るわけにもいかないので、胴体の腹にあたる部分に力一杯殴りつけて鎧を粉砕する。
粉砕した部分から服の一部がはっきりと見え、ヴァイスは生徒を無力化してしまう。
『この調子だ。数は後残り九人だな。素早く制圧してしまおう。この数程度なら困らないだろう』
「ああ。だが生徒の総数を考えればどれだけの生徒が…」
『必ずとも全生徒が居るわけじゃない。入学式の次の日だから結構来ているはずだが、それでも全ての生徒が必ずウイルスチップを使っているわけじゃないだろう。流石に全校生徒ではない』
「その通りよ。むしろ数は半分近くまで減ると思う。でも、それでも半分は暴走するという事を考えたほうが良いわ。でも貴方…覚悟はできているの?」
「死ぬわけじゃないんだろう?」
「そうだけど…どんな副作用があるか…そればかりは私でも分からないのよ」
「寝ったきりになるなら一生でも介護するだけだ…それだけだよ」
真はそんな覚悟の元でここまで足を運んでいたし、最悪の可能性を考えていないわけじゃない。
だからと言ってここで一華以外の生徒を犠牲には出来ないし、ましてやここから逃げて一華が救えるわけじゃない。
ここまで来た以上は覚悟を決めて戦うしかないと心に強く刻み付けてから戦いに挑んでいる。
「まずはこの場を脱しよう。海谷家のグループビルを目指せばいいんだな? そこから先」
「グループビルに入ったら詳細の場所を発見してからその場所まで移動。その後タワーを調べてアクセスの大元を特定し、アクセス元にいるであろう教頭を制圧して記憶粒子の暴走を停止する」
「タワーを破壊したら駄目なのか?」
「記憶粒子の暴走状態でどんな結果になるのか分からないのよ。最悪爆発したら焼野原よ」
『無論そんなことになるとは思わないが、それでも数パーセントの可能性で起きることもある。その数パーセントが起きた場合責任は取れないだろう? 最悪の解決先はそれになる。最も記憶粒子を暴走した状態で無理矢理タワーを破壊すればバックドアを持っている人間がどんな影響を受けるか…最悪脳みそが沸騰して死ぬ』
「じゃあどのみちアクセス元へ行ってから止める必要があるわけか…これを考えなかったわけじゃないが、聞きたいことがある。複数犯の可能性はあるのか?」
『ないわけじゃないが限りなく無い程度のレベルだな。これは行動範囲こそ広いが得られる利益や逃亡の危険性を考えれば間違いなく単独犯による犯行だ。もし複数犯が居たのなら外にいる警察や軍への対応も出来たはずだしな』
「そうね。それこそ貴方の家を襲撃するとかその辺の対応も出来たはずです。それをしなかったという事は出来なかったという事。それに複数人で行動していたのならあんな地道な行動にはならなかったはずよ」
真は「それもそうだな」と言いながら二人同時に無力化する。
あっという間に九人を制圧することには成功し正門から入った一同は入学式の会場でもあった第一講堂前まで来たところで前後から二十人に囲まれた。
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