暴走していく世界の中で 1
一華は自宅に帰ると同時にベットにダイブして考え込んでしまっていたが、何度考え込んでも答えが出てくるわけじゃない難題、それは真が隠していること。
真だけじゃない、沙喜や聡が何かを隠していることだけは間違いがないと直感がそういっているのだが、そもそも沙喜や真ほど頭が良いわけじゃなく、聡のように感が良いわけじゃない一華にとってあの三人がしている隠し事を見抜く力など存在しない。
昔から何かにつけてあの三人は一華をのけ者として考える節があり、それは一華にとっては正直寂しさを感じてしまっている。
そんなことを言ってもきっとあの三人は誤魔化すだけで、一華は彼らから聞き出す力など持ち得ていない。
「寂しいな…なんで私だけのけ者なんだろう」
真が一華をのけ者にしていることは昔からの事だから敢えて突っ込まないようにしているが、沙喜や聡もいざとなれば真の味方をする。
それがどうしても納得できなかった。
彼女が持つ物こそウイルスチップであるが、彼女はそれを使おうとは思わなかった。
入学前に教頭から渡されたこのチップをゲーム機に装着することは彼女の本能の部分が避けたがっている。
しかし、昨日まで素人だった真が昨日今日で上級生相手に勝つことが出来たという真実を受け入れられないでいた。
「昔から真君にゲームで勝ったこと無いんだよね…勝ちたいのに…勝たないと好きだって言えないのに」
自分自身の中にある欲を抑えることが出来そうになかった一華、でもそれをぐっと抑えて一華はそれを制服のポケットの中へと隠す。
勝ちたいという願いと同時に機械の力に頼ることは本能の部分が拒否しているが、それを大人な行動だとは思ってはいない。
だからこそ、いざとなった時の為に隠しているという側面がある。
そんな時だった。
一華のインコムが鳴り一通のメッセージを受け取ることになる。
『明日の授業参加者の中で『高性能チップ』を持っている者は今日中にゲーム機に装着してから登校することとする』
そういう話だったらと心に対して言い訳をしてからゲーム機にいそいそと取り付けていく。
沙喜はどうしても朝になってから気になることがあり、一華の家に向かって電話をしていたが、全く出る様子の無い一華に対して沙喜が取った行動は一華の家まで迎えに行くだった。
昨日真達と話した内容で不安を抱いた沙喜はその前に確認をしておこうと考えたのだ。
自宅がある一戸建ての家へと向かい、チャイムを鳴らしてみても誰も反応をしない。
「まだ出る時間じゃないはずだけど…むしろ普段は少し遅いぐらいに出るのに…念のために」
前々から一華の自宅のカギの隠し場所である植木鉢の下を探り、電子キーへと手を伸ばして玄関のカギを開けてから中へと入る。
人の気配のしない玄関には一華の靴はもうない。
念のためにと奥へと入っていきリビングとダイニングキッチン、二階にある一華の部屋へと足を延ばしてもそこには誰も居ない。
その代わり彼女の机の上には普段使わない工具の類がそのまま放置されている。
「使ったのは昨日の夜中かしら? まさか一華…貴女」
沙喜はインコムを起動させて真へと通話を入れると、通話の奥から眠そうな真の声が聞こえてきた。
どうやら未だお眠だったようで、比較的機嫌の悪そうな声。
『なんだよ…眠いんだけど?』
「一華の家に居るんだけど。一華朝早くに学校に行ったみたいなのよ」
『真面目に授業に出るつもりなんじゃないのか?』
「なら良いけど。昨日のうちに工具で何かをしていた風なのよね。それも簡単にできること。言っている意味が分かる? 言いたいこと」
『……ウイルスチップを入れたっていうのか? 何のために?』
「分からないわよ。でも、もし教頭が今日動くつもりなら何か昨日のうちに生徒に連絡を出したんじゃない?」
そして、一華は学校の意向だと思ってそのままつけるだろうが、細かい事情を知らない一華ならそうする。
沙喜は己の不甲斐無さを恨みそうになる中、一華の家の玄関のカギを閉めてから学校へと駆けていく。
嫌な予感に駆られる体、そんな時聡から二人へのグループ通話がやってきた。
『真。沙喜。早く学校に来てくれないか!? 学校内で記憶粒子が暴走状態みたいなんだ』
『暴走状態とは?』
真は言っている意味をまるで分からないという声を放つ中、沙喜は直ぐに状況を理解した。
「記憶粒子が赤いのね? それ、誰かが教えてくれたの?」
『ウォン先生だ。今海谷家のビルの中に立て籠もっている状態なんだよ』
沙喜の頭の中に体の大きい人を直ぐに思い浮かべた。
『で? 記憶粒子の暴走ってなんだよ。それが起きると何がヤバいんだ?』
「記憶粒子を使った事実上の兵器による暴走状態よ。無制限の構築と記憶粒子を使った機器の暴走だけど…でも普通出来ないはず」
『その通りだ。普通ならできないが、もし学校内にあるタワーへとアクセスしても不可能だが、もし敵がウイルスチップを使っているのなら可能になる』
『ウォン先生?』
『ならタワーへと入って言ってウイルスチップを排除すればいいのか?』
「無理。タワーへと直接言っても解決にならないわ。アクセス元からワクチンを注入しないと」
『それは沙喜ならできるのか?』
「できるけど…私持ってないわよ? それにワクチンならアンタが持っているじゃない。ヴァイスっていうワクチンがね。あれをアクセス元まで連れていけば後は本人が何とかするわよ」
通話の奥から真が何か言っている音が聞こえてきたが、沙喜はこんなことで足を止めている時間がもったいない。
そんな気持ちで歩いていた。
『アクセス先はどうやって調べればいい?』
「それこそタワーの中枢へと行けば分かるわよ。ただ…そこまで行くのに苦労する上にそこから時間が掛かるのよ」
『先生じゃできないのか?』
真の電話の奥から女性の声が聞こえてきた。
『無理ですね。真様。それが出来るのならもう実行しているはずです。あれは記憶粒子への知識では不可能です。高度な情報処理能力を要しますから』
「理亜さん。私なら出来るわ。真一旦学校の正門前で合流しましょう。そこから一度海谷グループビルへと向かいましょう」
『分かった。朝食を食べてから…』
『真様。それは向かいながらでお願いします。学校方面より危険域に達するレベルの記憶粒子が散布されています。この調子ならウイルスチップを搭載している全ての機器とその周辺の人間全てが暴走する危険性があります。実際に学校ではもうすでに暴走しているのでしょう?』
『その通りだ。この調子で記憶粒子が暴走を続ければ町中にいる人にまで暴走の影響が出る。記憶粒子がまだ学校内に留まっている今がチャンスなんだ。沙喜君。真君。直ぐに来てくれ!』
『でも。なら俺達が行けば同じように暴走の影響を受けるんじゃ…』
「その為のヴァイスよ。ヴァイスが前に学校に居た時に恐らく海谷グループビルへとワクチンを複製しておいたから、あのビルだけ例外的に守れているのよ」
『その通りだ。私が念の為にと置いておいた。役に立てばいいぐらいの気持ちだったが。実際に役に立ったな』
「私はこのまま校門前で待つから早く来て頂戴。朝食は食べながらにして! 良いわね?」
『分かってるよ…はぁ…なんでこんなことに』
電話の奥から真の愚痴が聞こえてきた。
「ていうか。あんた今日行われる予定だった授業出る気あったわけ!?」
『………無い。眠気に負けそうになったらそのまま寝ているつもりだった』
「本当にいい根性しているわよ。良いから早く来て頂戴!」
沙喜は心の中で叫んでいた。
(お願いよ…! 一華。使わないで!!!)
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